DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP TOKYO vol.005

唯一無二のオリジナリティとは?
駒沢で考える「三方良し」。

BROOKLYN RIBBON FRIES オーナー
井本喜久さん インタビュー
2016.12.20

飲食店に求められる「企画力」と「センス」

 アメリカやヨーロッパではここ数年、インディペンデント系の飲食店が集客において大きな成功を集めている。巨大なチェーン店の出店に辟易した街の住民たちが求めるのは、その店にしかないオリジナリティ。ただ安く、ただ美味しく便利、ということだけではなく、空間そのものが魅力を放ち、その場に身を置きたいと思わせる『企画力』と『センス』が飲食店には求められている。
感度の高い客が集まれば、その空間には創造的な空気が生まれ、店舗は顧客とともに自然と成長していく。そうしたムードが醸成されると、次には広く老若男女の新規顧客が集まるようになり、ビジネス面でも幸福なサイクルがいよいよ回転し始めるのだ。
そんなトレンドが、東京でもにわかに形成され始めている。

ポテトとジンジャーエール

今回、取材した「BROOKLYN RIBBON FRIES」もそのひとつ。トタン屋根の屋台風店舗から始まったこの店は現在、表参道、原宿、駒沢といった街でそれぞれにユニークな展開をしながら発展を続ける。「オシャレな雰囲気」だけではない、唯一無二のオリジナリティが集客に成功している大きな要因だ。 この店がサーヴするのはフライドポテトとジンジャーエール。マーケティングの理論だけでは絶対に実現しない、このユニークさが多くの支持を集めた。一体、どのような構想からこの店がスタートすることになったのか、オーナーの井本喜久さんに話を聞いていく。

「僕らがいいなって思うものを編集していった感覚ですね。思いを共有する仲間たちとアイデアやモノを集めていったら、最初の屋台になっていったんです。フライドポテトとジンジャエールしか売っていないのに 『なんなんだ、この哲学的な感じは』 と感じてもらえる店にしたかったです。単に飲食をやっているということじゃなく、僕らの生き方がそのまま表現されたような店づくりのプロセスでしたね」

『創造性を大切にするマインド』

 ブルックリンの名にふさわしく、どことなくアーティスティックで手作り感あふれる店舗の雰囲気。かといってすべてアメリカンテイストでまとめられているわけでは全くない。揚げたてフライドポテトは北海道の大地で育てられた新鮮なジャガイモから。ジンジャーエールにしても、熊本産の生ショウガをベースにブレンドされたシロップがその味の核となっている。
「この店の味やメニューをつくったKiyoは、ブルックリンに家族で暮らしながらマンハッタンやクイーンズで超人気のレストランをプロデュースしています。彼の妻はインテリアデザイナーで、このお店のインテリアデザインは彼女が手掛けたものです。でも、このお店は単にデザイン的に『ブルックリン』を表現したかったわけではなく、ブルックリンの文化そのもの、つまり『ローカルな創造性を大切にするマインド』をより多くの人に伝えたかったんです。お店を接点にいろんな才能が集まって、結果その周辺が盛り上がってく。みたいな感覚がもっと東京にも生まれるべきだと思います。

僕らのチームにはシェフやデザイナー、スタイリスト、俳優、カメラマンなど面白い人間が集まっているから、ここにいるみんなのセンス、生き方そのものをストレートに表現できれば、きっとユニークな店になると思っていました。みんなで共有したのは“ポテトとジンジャーで世界を平和にする”という感覚を真ん中にして『遊ぶ』ことだったんですよね(笑)」

『三方良し』のスタンス

共同オーナーの一人であるスタイリスト亀恭子さんが寒風吹きすさぶNYで仕事をしていた時、味噌汁を飲めるスタンドがあったら嬉しいというアイデアを、井本さんと話したところからこの店の着想が始まっていった。その後、NYで活躍するシェフのKiyoさんにそのアイデアをもちかけた井本さん。返ってきた答えが全く違ってて「ジンジャーエールとフライドポテト」だったことから、キャッチーで面白いと思いプロジェクトが加速していく。
「僕はもともと広告の企画や制作が本業で、若い頃は『全ての答えはクライアントのなかにある』と思って仕事をしていた。けれども、それじゃ面白くない。そんな時に地域活性化のための社会貢献活動をボランティアでやって変わったんです。そしてさらに、自身の直感を大切にして、自分が面白いと思うことを軸に考えるようになった。自分たちが心底面白いと思ってやっていれば、どんどん人が集まってきて、そこに何か社会的に新しい価値が生まれる。そうなると仕事も上手く進み始める。これって、いわゆる近江商人の『三方良し』なんですよね。売り手良し、買い手良し、世間良し。この3つのバランスが商売やってく上で大切だということに多くの人が気づいてきてる時代だと思います。」

『生きた店づくり』

単なる飲食店ではなく、オシャレな空間でもなく、誰もが気になる「現象」を作り出していきたいと語る井本さん。確かに、ワクワクするような空気が、店内に充満している。
「世界のどこにもないオリジナルのジンジャーエールやNYハンバーガーの美味しさにも絶対の自信がある。そうした『美味しい食』をキッカケに仲間たちが集まり、夢を語らいながら、やがて世界に羽ばたいていく、そんな現象が起こっていく場所を作りたかった。店内にはわざわざガラス張りでファクトリーを作って、ジンジャーシロップができていくプロセスをお客さんの目の前で見せる。マーケティングとか効率性で考えれば、こんな広いスペースを使ってファクトリーにしてしまうのはNGでしょう。」
「でも、僕らのモノづくりのこだわりをお客さんに見てほしかったし、効率だけを追求しても面白くない。自分たちの『らしさ』を出すという意味では、スタッフが共有するマニュアルとかも存在しないんです。

型にはまった接客なんて楽しくないし、マニュアルがあるとスタッフは自分で考えようとしなくなる。だからメンバーとは夢とか方向性だけを共有して、みんなのポテンシャルにまかせる。『いらっしゃいませ、何になさいますか』と判で押したように話すんじゃなく、スタッフが自分の言葉で『今日はね、これが美味いっすよ』と話しかける(笑)。そういう雰囲気の方がお客さんだって楽しいし、生きた店になっていくと感じていますね」

唯一無二のオリジナリティ

心とカラダに健康なことを考えながら、持続可能な社会に貢献したいとも話す井本さん。BROOKLYN RIBBON FRIESには、そうした思想が味にも接客にも、センスの良いインテリアにも反映されている。まるで人格を持ったような、魅力的な空間。理論や法則、効率や数式だけでは集客できない時代が既に到来している。

BROOKLYN RIBBON FRIES KOMAZAWA(ブルックリンリボンフライズ 駒沢)
美味しく、サスティナブルなフードベンダーとして、支持を集めるユニークなブランド。手作りのフライドポテトとジンジャーエールという二枚看板のほか、オーガニックなバーガーやサラダなども人気。2012年に表参道「246COMMON」で産声をあげ、2014年には駒沢でフラッグシップショップをスタート。今年7月には原宿でポテトキオスクを誕生させ、好評を得ている。

http://brooklynribbonfries.com

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