DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP TOKYO vol.006

京橋 × NEW YORK、
ヒントはいつも近くにある。

POSTALCO マイク・エーブルソンさん インタビュー
2017.01.25

 渋谷と京橋に直営店を構えるブランド「ポスタルコ」。そのプロダクトはどこか無国籍風で、オーガニックなテイストを感じさせるだけでなく、抜群の使い勝手、耐久性で、広く人気を獲得している。店舗はといえば、いかにも購買を即すような佇まいではなく、センスの良い知人のリビングに入り込んだような錯覚さえ覚える、落ち着きと安心感が印象的だ。
ニューヨークでデザイナーとして活躍していたマイク・エーブルソンさんが、妻の友理さんのために書類ケースを作ったところからスタートしたというこのブランド。使いやすく個性的なステーショナリーを中心に、今ではアパレルやバッグなど幅広くラインアップ。
カルダー財団、イッセイ・ミヤケ、トッド・スナイダーといった多くの国際的ブランドとコラボレーション。国内では蔦屋書店、リビングモチーフ、クラスカ ギャラリー&ショップ ドーなどの全国的な販売。ポスタルコのアイデア、センス、技術は国内外で高い評価を得ている。

流行を意識しないモノづくり

「私たちは、店舗を増やすことよりモノづくりに集中したい」こう語るマイクさんに、ブランドとしてのスタンスや店舗デザインの構築法などについて聞いていく。
「モノづくりにおいても、店舗デザインにしても、流行というものは全く意識していません。流行を意識すると、最終的には自分自身と離れたモノを作ることになってしまうでしょう。だから、私たち自身が心の底から欲しいなと思えるものを作るんです。結果として、こういうものが欲しいんだけど、ちょうどいいものがないから自分たちで作ってしまおうということになる。使って心地良い、着てみて気持ちいいということが優先される、モノづくりですよね」

『人間の感覚』から生まれる新しいもの

 身体で感じること、フィジカルな感覚からヒントをもらいながら、結果として新しいものが生まれてくると話すマイクさん。はじめに不特定多数のターゲットに幅広く受け入れられることを考えるのではなく、自らを最も信頼できる顧客としてモノづくりを行っているという。

普遍的に愛される上質なラインアップ

「流行というものは必ず過ぎ去っていく。つまり流行を意識して作ったモノや店舗は、その流行が終われば途端に古く感じられる。でも人間の感覚というのは国籍や年齢、性別に関係なく、基本的には変わらないでしょう。だから私たちは人の身体、日常の行動を丁寧に観察して、リサーチすることで、長く愛されるモノが作れると思っているんです。雨に濡れないタフなコートがあれば、雨の日だって気持ちよく過ごせる。これは毎年、一過性の感覚ではないですからね」

ブランドの根本思想

 原体験は、ニューヨークに住んでいた頃、お気に入りのステーショナリーショップで得た感覚。マイクさんが気に入るのは、オーナーの個性が色濃く出たショップばかり。それらの店は当然、流行とは無縁で、オーナーのライフスタイルや思想がプロダクトに強く反映されていた。結果として、幅広く展開するチェーン店にはない魅力が、濃いファンを獲得する要因になっていたのだ。
 もともとは文具の制作からスタートしたポスタルコだが、持っていて気持ちの良いもの、生活を支えるセンスの良いものを作るうちに、身の回り品を多くラインアップするようにもなった。

このようなブランドの展開もオーナーであるマイクさん、友理さんの個性であり、次はどんなプロダクトが展開していくかという点もファンの興味を惹きつける。もちろん、ショップの佇まいに関しても妥協はない。商品の色がきちんと見え、明るすぎず、落ち着く照明を自らで考案。はじめに理想の形を夢想し、そうしたマテリアルが世の中になければ自分で作ってしまうというのがポスタルコの根本思想なのだ。

街に寄り添う店舗デザイン

「店舗に関しても、特に多くの人に気に入られようと思ってデザインしているわけではありません。意識しているのは、その街の中で、ほどよい存在感を感じてもらえるようにしたいということ。街の雰囲気を全く意識せず、ただショップだけがオシャレでも違和感がある。だから私たちは家を出て、その街に来て、ブラブラする中でふっとお店に入るというプロセスを意識しているんです。お店は街の一部だから、その街とのコントラストを考慮した上で、ちょっとした存在感を感じられればいい。」

「たとえば京橋店の周囲はオフィスが多くて、そんな街の中にはちょっと温かみを感じさせ、落ち着くスペースがあったらいいなと。そう考えていくと当然、渋谷店のデザインとは違ってきますよね。乱暴な言い方になってしまうかもしれないですが、古いものは新しく、とにかくキレイに、オシャレにしていくというお店が日本には多いかもしれません。それは決して悪いことじゃないですが、街との調和ということを皆が考えれば、お店も街もより魅力的になっていくんじゃないかと私は思いますね」

 温かみとオリジナリティを備え、人々の生活をさりげなく支えていくようなプロダクトを作っていきたいと語る、マイクさん夫妻。普遍的に愛されるブランド、プロダクト、ショップとはどのようなものなのかが、彼らの話から透けて見えてくるようだ。

POSTALCO(ポスタルコ)
2000年、ひとつの書類ケースを作ったことから、ブランドがスタート。以来、日々の生活にさりげなく溶け込み、確かな実用性、ちょっとした驚きを与えてくれるプロダクトを制作。日本の伝統的技術を採り入れたり、新素材を開発したり、そのオリジナリティあふれるモノづくりのスタンスによって、幅広いファンを獲得している。

https://postalco.net

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