DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP TOKYO vol.004

トレンドを意識しない店づくり。
代官山のピザ屋が人を集める理由。

PIZZA SLICE オーナー 猿丸浩基さん インタビュー
2016.10.25

売れるデザインのヒントが潜む街

 いまや、東京で最も洗練されたスポットとして広く認知されつつある代官山。
街角の店舗は先鋭的なデザインを武器とし、感度の高い客を呼びこむべく、常にアイデアを思案している。言い換えれば、店舗の内装や雰囲気作りに失敗すればこのエリアでのビジネス的な成功はないと言っていい。

すなわち、このエリアのデザインを見れば、 売れるデザインのヒントがおぼろげながら分かってくるはずだ。

イノベーターの着眼点

 そんな仮定に基づき、今回、注目したのが3年ほど前にオープンした「PIZZA SLICE(ピザ スライス)」だ。開店当初は人影もまばらだったこの店だが、今では昼から夜までひっきりなしに客が訪れる盛況ぶり。店に入ると、とびきり高い天井やどことなく落ち着く雰囲気が印象的だが、特段、際立つデザイン的なアイデアは見当たらない。
オーナーの猿丸浩基さんに話を聞くと、まずはこんな答えが返ってきた。
「代官山ってお洒落な店が多いでしょう。でもよく考えるとお洒落とかカッコいいという感覚って時代とともに移り変わっていくもの。だから僕は逆に、流行の雰囲気を意識したくないなと思ったんです。言ってみれば大衆食堂というか、ただただクラシックを目指したという感じ」

 とは言え、ディテールに目を凝らしていくと、この店ならではのオリジナリティが少しずつ見えてくる。ラックに置かれるのは全てが洋雑誌。椅子やテーブルは何年も使い込まれた味が漂う。猿丸さんが店をオープンする前、ニューヨークで修行したことを知って、この内装の理由が理解できた。
「日本語で書かれたものは店内に置かないとか、照明を暗めにして落ち着く雰囲気を作るとか、いかにもお洒落という備品を置かないとか。そういう部分はニューヨークで見た色々な店舗のイメージから出てきたアイデアです。特にこだわったのはタイルの部分とカウンターの高さかな。もう何年使ったか分からないほど古びたタイルを、ニューヨークではよく目にしていた。この店を作る時もそんなイメージがあったので、新品のタイルにわざと傷をつけてエイジングしました。カウンターは少し高めに設定して、立ちながら食べたり、飲んだりするアメリカ人にフィットするようにしたんです。そういうちょっとした工夫もあって、外国人のお客さんがとても増えてきましたね」

こだわりが生むオリジナリティ

 どちらかと言えば、美しく洗練されたデコレーションへと向かいがちな人気店のデザイン志向。ところがPIZZA SLICEは気負いなく落ち着いた空間を目指すため、ニューヨーカーのフードカルチャーからヒントをすくい上げた。
「でも欧米のマネをしすぎるのはカッコ悪いとも思っていたんです。そういう店が日本には増えてるなと帰国後に強く感じた。だから、ニューヨークの雰囲気はさり気なく演出するんだけど、日本流のテイストも注入することでオリジナリティを出そうと思った。どこが日本流かといえば、やっぱり味とか接客の部分ですかね。ニューヨークのピザ屋ってかなり適当な調理をしてる所も多いんですけど、僕らはもちろん美味しさにこだわって、生地にしてもソースにしても長い時間をかけてまた食べたくなるような味になっていると思う」

「抜け感」が創り出す新しさ

 女性客を強く意識した店舗の多い代官山。そんな場所でこの店が存在感を発揮する理由は、 ズバリ「男目線」。「男的な力の抜け方」もデザインのポイントになっていると猿丸さんは言う。 「ピザを入れるボックスは男的になぜかテンションがあがるものでもあるんで(笑)、シンプルだけどオリジナルで作ってます。あとは、別にそこ、掃除しなくていいじゃん的な感覚とか、フライヤーがラフな感じでドアに貼られているとか、そういう部分にも男目線は反映されていると思います(笑)。帰国した時、あらためて日本で流行っている店をみて、男としてあまりにも放っておかれてるなあと感じた。そういう感覚はニューヨークで養われたのかもしれないし、逆に日本では新鮮かなと」
狙いすぎず、力を入れすぎず。とはいえ、オーナーのパーソナルな想いがストーリーとして店に込められ、そのことがオリジナリティを創出する源にもなっている。
トレンドを意識すればするほど、その方向性には新鮮味がなくなっていく。PIZZA SLICEのほどよい「抜け感」は、そんな教訓を教えてくれているようだ。

PIZZA SLICE(ピザ スライス)
2013年、代官山に一号店を、今年4月には南青山に二号店をオープン。ニューヨーク仕込みのピザはボリュームたっぷりで、日本ではあまり見られない1スライススタイルも好評を博している。気取り過ぎず、それでいてどことなく刺激的な店内。国籍、ジェンダー、年齢問わず、幅広く愛される注目の店だ。

http://www.pizzaslice.co

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