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WEB MAGAZINE by TP tokyo vol.008

ブランディングの真髄とは?
常陸野ネストビール台頭の舞台裏。

木内酒造合資会社 企画室 インタビュー
2017.04.10

 茨城のグルメといえば、納豆に梅、梨などがすぐに思い浮かぶが、もうひとつ、ワールドクラスの知名度を有する地元の名産を忘れてはならない。
1823年に常陸の国で日本酒造りを始めたという木内酒造発のクラフトビール「常陸野ネストビール」だ。
このビールは世界的なクラフトビールのブームもあって、海外で大ブレイク。とりわけニューヨークでは洒落たバーやカフェ、レストランに必ずといっていいほど置かれる、人気ブランドなのである。
種類はホワイトエールやバイツェンなど定番が常時15種、さらには季節ものや限定品が不定期で2~3種程度加わり、充実のラインアップがスタンバイ。選ぶ楽しさも相まって、平成7年にスタートした同ブランドの認知度は異例の速さで広がり続けている。

 176年もの間、日本酒だけを作り続けてきた同社がなぜ、ビール作りにおいても成功できたのか。理由のひとつは、規制により、日本では長きに渡って小規模ビール工場に認可が降りず、個性豊かな地ビールがほとんどなかったこと。そのような状況で同社は規制緩和のタイミングに乗じ、いちはやくビール作りに乗り出した。
カナダの醸造機械メーカーから協力を得て高価なマシンを入手し、サイバー空間に潜む世界中のビール製造におけるノウハウも吸収。ヨーロッパの本格派ビールを目指し、地道な努力を続けたのだ。さらに、木内酒造が取り組んだのは「日本流」「茨城流」のビール造りだった。
同社企画室の萩谷真千子さんはこう説明する。
「私たちが意識するのは、茨城で作っているということ。つまり、地域の材料を巧く取り入れてビールを作るということです。たとえば地元には福来(ふくれ)みかんという小さなみかんがあるのですが、この皮を使ったビールは人気の商品になりました。地元の材料を入れることがビールの個性になり、海外でも際立つ理由となっていくのです」

この地で作る必然性や想い

 とはいえ、ブランドのスタート時からこうした方針が定まっていたわけではない。当初は欧米で主流のビール、ひたすら高品質のビールを作ることだけを考えていたという。ところが、そんなビールに海外の販売店から注文がついた。
「なんで日本や茨城のオリジナルビールがないのかと。欧米風のビールならどこでも手に入れられるので、もっと日本らしい商品が欲しいといわれた事が、転機となりました。」
 そこで着目したのが、地元の農家だった。もともと茨城は日本一のビール麦生産地だったものの、後継者不足や輸入品に押されて生産量は低下していた。この地のビール麦を使えば、地元の活性化にもつながり、茨城ならではのビールを世に出せる。水も綺麗で土壌もいい。そこで地元農家との提携を強化し、オリジナルビール造りの道程が定まっていった。萩谷さんはこう続ける。
「社長がよく口にするのは、ストーリーを大切にしようということ。この地で作る必然性とか想いがあるからこそ、ストーリーになっていく。ただ、見かけや風合いを整えたり、マネたりしても、お客さんは喜びません。人は、商品の背景にあるストーリーに惹かれるものなんです」

 常陸野ビールの人気は、こうしたビール造りの方向性に加え、秀逸なパッケージデザインにも支えられている。ひと目見ればすぐに覚えてしまう、ふくろうのマーク。このユニークなマークは、海外で広く、スピーディに認知されるようになった大きな要因でもある。
「初めは、茨城名物であるアンコウのマークなども候補に挙がりました。また鴻巣という地名からコウノトリというアイデアもあったんです。最終的にはこの地域にかつて多く生息していたフクロウに決まりました。格好良く、お洒落に見せるだけではなくあえて少し泥臭さも残そうと。このマークを見て、きっとふくろうが住んでいるような自然の中でビール造りをしているんだろうなと思いを馳せてもらえれば。デザインにおいても、見た目の格好良さより、ストーリーを重視したわけです」

こだわりとストーリー

 たとえば東京駅や神田万世橋にある同社の「ブルーイング・ラボ」はビール製造のプロセスが一望できるユニークな店舗のデザイン。このような構成にした理由も、ビール造りにかける熱い想いや、こだわりの製造過程をストーリーとして表現したかったからこそ。ただ、美味しいビールが飲める場所というだけでなく、どんなスタッフが、どのような過程で作っているかを見ることで、ブランドに対する愛着も湧く。膨大な商品であふれかえる現代の社会。こうしたストーリーづくりは、ブランドの人気定着において必須条件であると言っていいだろう。
「ふくろうのマークが定着しているからといって、むやみにキャラクターグッズを作らないのも常陸野ネストの特徴かもしれませんね。ただ可愛いからといってグッズにプリントするだけのアイデアはまず採用されません。やっぱりなぜこれを作る必要があるのか、はっきりとした理由やストーリーがないとブランドの価値が下がってしまいますから」

常にオリジナルを模索し、独自のストーリーを構築すべく、木内酒造は進化を続ける。店を訪れ、際立つブランド造りのヒントを探ってみるのも面白い。

木内酒造合資会社
1823年、常陸の国那珂郡鴻巣村の庄屋だった木内儀兵衛が酒造りを開始。以来、伝統ある日本酒メーカーとして時代を築く。現在では、日本酒のほか、ビール、ウイスキーなどを製造、販売。
とりわけ常陸野ビールはアメリカ、イギリス、ドイツなどのビール先進国で圧倒的な人気を獲得。日本を代表するクラフトビールとして、世界に知られる。

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