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WEB MAGAZINE by TP TOKYO vol.016

フードデリバリーの市場、激変のきざし。
ゲームチェンジャー「Wolt」に学ぶ、
企業と社会の良好な関係性。

Wolt カントリーマーケティング マネージャー 新宅暁さん インタビュー
2020.11.13

ますます深化するであろう
東京のフードデリバリー市場

 コロナウィルスの蔓延によって変わり続ける世界と社会。最も大きな打撃を受け、変化を余儀なくされている業界のひとつがフード関連業界である。三密を避けるため、混雑しそうな店舗内での飲食は大幅に人数を制限。あるいは完全に店舗での飲食はあきらめ、テイクアウトの比重を大幅に増やすといったケースも現在では珍しくない。同時に、デリバリーのニーズが急激に高まっていることを疑う余地もないだろう。

 そもそもコロナの衝撃以前から外食・中食マーケットには地殻変動が起きていた。日本国内におけるフードデリバリー市場はここ数年、膨張を続けており、2018年はレストラン業態におけるデリバリー市場が4084億円の規模に(エヌピーディー・ジャパン調べ。小売店、自販機、社員食堂、学生食堂などを除く)。これは前年比5.9%増加の数字であり、フードデリバリー市場が拡張する傾向は時代の必然でもあったと言える。そこにコロナという予測不能の事態が重なった。結果として、日本人のライフスタイルにおけるフードデリバリーの位置付けも大きく変化。とりわけ膨大な飲食店が存在する東京では、今後ますます「食」をデリバリーするというカルチャーが深化するのは間違いない。

「Wolt」が日本の市場に
注目する理由とは

 東京におけるフードデリバリー業界へのニーズが劇的に高まった、2020年後半。すでに「Uber Eats」や「menu」「出前館」といった先行サービスもあるなか、最強のゲームチェンジャーが北欧からやってくる。フィンランドを発祥とするそのプレーヤー「Wolt(ウォルト)」は、どのような経緯でこの東京市場に参入し、どんな戦略をもって東京での存在感を高めようとしているのか。日本での展開をプロデュースするキーマン、新宅暁さんに話を聞いていく。

「本国フィンランド以外では、スウェーデンやエストニア、デンマーク、ラトビアなどで展開していたんですが、やがては日本、というのが代表のミキ・クーシにとって大きな目標ではあったんです。第一に彼には宮崎駿やNintendo、SONYなど、日本への憧れが強かった。第二に、当然、市場としての魅力ですよね。事前分析によるとフードデリバリー市場としての日本の規模は世界で第三位。反面、オンラインでのデリバリー浸透率は約6%と、世界で最低レベルでした。ですからwoltが入り込む余地は非常にあるという感覚をもって、日本を見ていたのです」

 Woltが手掛ける食のなかで、「お寿司」は世界でトップ3の人気。そんなお寿司の故郷でビジネスを展開する、というモチベーションもWoltスタッフのなかでは高まっていたという。

ビジネスをドライブさせる
「サステナブル」というキーワード

 すでに複数のフードデリバリーサービスが稼働している日本において、Woltはまず広島上陸を果たし、東京市場進出への準備を進めた。広島をファーストステップとした理由について新宅さんはこう話す。

「日本への進出ということは当然、東京での大きな展開を目論んでいました。でもいきなり東京で展開するにはややハードルの高い市場であると考えていたんです。私たちの見立てでは東京は世界でも最高レベルのサービスを求める市場であると。Woltのクオリティが東京で受け入れられるレベルなのかどうかを、広島というエリアでまずは見極めたかったのです。結果として、広島では高い継続率でWoltを利用していただくことができ、東京でも持続的に利用していただけるなと確信できました」

 ここで聞かれた「持続的」というフレーズはWoltを語る上で重要なキーワードだ。「持続的=サステナブル」という言葉が全世界のWoltをつなぐ、もっとも大切な思想ともなっているという。

「私たちは地球環境の保護だけでなく、ビジネスにおいてもサステナブル(=持続可能)であることが最も大切だと考えています。いかにトップラインを伸ばすか、どれだけグロースするかということにフォーカスしている企業は多いですが、Woltはいかに顧客やパートナーとの関係を持続できるかに重きを置いているのです」

 たとえばパートナーとなるレストランを開拓する際にも、手当たり次第に契約をとりにいくのではなく、サステナブルを重んじる。パートナーと直接、顔を合わせ、お互いの素養をしっかり見極めた上で丁寧な契約をすれば、その関係は持続する可能性も高い。あるいは、スタッフに対するケアもサステナブルを意識する。いかに長く働いてもらえる環境をつくれるか。これにフォーカスすることで企業側も従業員側も長期的な満足感を得られるわけだ。

「社内では、短距離走のようなビジネスではなく、マラソンをやろうとよく言うんです。サステナブルなビジネスが実現できれば会社、スタッフ、顧客、パートナーが長期的に満足でき、将来的には雇用だって増える。結果としてWoltを展開している地域社会が豊かになると。まさにそれが私たちの事業の目的です」

研ぎ澄まされたシステムと
あたたかみを感じるヒューマンタッチの融合

 サステナブルなビジネスを実現するため、Woltが注力するポイントはまだまだいくつもある。顧客に対しては、充実したレストランのラインナップ、アプリの質、そして迅速かつ正確なデリバリー。デリバリーにおいては世界中で培ったノウハウをもとに独自のアルゴリズムを軸として効率性、正確性を実現している。

「位置情報、配達車両情報、顧客の直近のオーダーなど、多様なデータがまずwoltの強みです。そのデータを活かして、たとえばひとつの配達車両が、A,B,Cという順番にお店を廻り、その後、1,2,3の順番にお客様に商品を届ける。この導線を最も効率的に決定できるのが豊富なデータにもとづくアルゴリズムなんです。データが増えればさらにサービスの質は高まり、お客様にとっても、配達者にとっても良い結果をもたらす。
 Woltで働くシステムエンジニア約180名のうち、150名ほどがこの効率性を高めるインテグレーションに注力しています。Woltのアプリはデザイン性を評価されることも多いのですが、実は目に見えない部分でのエンジニアリングにこそ、時間とコストをかけているんです」

 質の高いサービスを提供するため、配達パートナーの育成には適正テストなどもシステマチックに実施。仕事がスタートしてからも十分なコミュニケーションによって、サービスのクオリティが劣化するのを防ぐ。Woltとしては断熱性の高い専用バッグを提供するなど質の高いギアによってデリバリースタッフの活動をサポート。多方面からつねに自社サービスを見つめ、その向上につながる環境づくりができあがっているのだ。

「とはいえ、商品を入れ忘れたとか、配達先のマンションを間違えたといったヒューマンエラーはどうしても起きます。ですからそのようなトラブルを即時解決すること、そして次に同じエラーが起きないようにすること、この2点をカスタマーサポートでは重視しているんです。

チャットボットなども普及している昨今ですがWoltではすべて人間が対応していますし、しかもアウトソーシングでなく社員がカスタマーサポートに当たっている。この点は大きな特徴だと考えています。質の高いアルゴリズムを軸とした高度なシステムと、カスタマーサービスのようなヒューマンタッチの組み合わせ。このバランスこそがWoltのキャラクターなのだという自覚を全員が持っていますね」
 
 ジャンルを問わず、ビジネスを拡張させるエッセンスに富んだWoltの思想。今後は、コスメや衣料品など食にとらわれないデリバリービジネス実現の可能性もあると言い、我々のライフスタイルとの接点は倍増するかもしれない。TP tokyoで提供するサステナブルなフードパッケージもWoltのサービスに連携していく(https://takepack.jp)。人々の生活と地域全体を豊かに変えていくというWoltの取り組みは、間違いなくポジティブな未来を予感させてくれる。


Wolt
フィンランドの首都・ヘルシンキで生まれたフードデリバリーサービス。2020年3月に日本初上陸(広島エリア)を果たし、10月には東京市場でサービス提供をスタート。現在、東京では港区、渋谷区、新宿区、世田谷区、品川区の一部などでサービスの利用が可能となっている。

https://wolt.com/ja

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