DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP TOKYO vol.003

「ガリガリ君」はなぜ売れる?
成功するキャラクターデザイン。

アートディレクター 高橋俊之さん インタビュー
2016.09.29

デザインとCIの力

 今年5月、NYタイムズの一面に、ある日本企業の人気商品が大きく紹介された。長年のデフレに苦しむ日本経済にあって、25年ぶりの値上げを敢行した人気商品。それは日本人なら誰もが知るアイスキャンディー「ガリガリ君」だった。あくまで、この時勢に値上げを敢行する稀有な商品としての紹介だったものの、日本を代表する定番プロダクトとして、世界を代表する著名新聞に大きく取り上げられたガリガリ君。その国民的な知名度をNYタイムズが認めたことに、日本でも驚きの声が多く上がった。
1981年に発売されて以来、コンスタントに売れ続けてきた氷菓「ガリガリ君」。
今回は、このアイスキャンディーがいかにして強力なブランド力を獲得していったかについて、リサーチしていきたい。 その原動力となったのはもちろん氷菓自体の美味しさにあるものの、商品価値を高めることに大きく貢献したのは間違いなく、デザインやCI(コーポレート・アイデンティティ)の力だった。

アイスにワクワク感を。ガリガリ君、誕生!

 CIの観点から見たポイントはまず、そのネーミングにある。氷菓の主なターゲットは子どもたち。彼らに選んでもらうため、メーカーの赤城乳業が念頭に置いたのは「ワクワク感」だったという。 その結果、商品名は食感からくる「ガリガリ」でほぼ決まっていたところ、社長の一声で「ガリガリ君」というネーミングに。そのキャッチーな響きを持つ名前に決定した時から、ガリガリ君のサクセスストーリーは始まっていった。
 加えて、ネーミングにフィットするキャラクターの設定がその後の成功を後押しする決定打となっていく。赤城乳業は「昭和30年代のガキ大将」をモチーフに、インパクトのある中学3年生キャラを社内で制作。パッケージに印刷されたこのユニークなキャラはまたたく間に消費者へ浸透。コンビニでの展開も相まって、大ヒット商品としての地固めが進んでいく。様々な風味をバリエーションとして発売していく策も功を奏し、販売本数は順調に増加。
そして発売から約20年が経とうとしていた90年代後半、大きなターニングポイントが訪れることになった。ガリガリ君の成功を他メーカーが黙って見ているはずもなく、競合商品がどんどんと登場。次第に、売れ行きに陰りが見え始めたのだ。

 そこで実施したのが全国規模の消費者調査だった。ここで分かった事実は意外にもキャラクターの不人気。「汗臭い」「田舎くさい」といったネガティブなイメージを持つ消費者が予想以上に多かったのだ。そんなタイミングで決定したのが外部デザイナーの登用だった。社外の新鮮な知恵を得て、キャラクターを再度、設定し直すという方向性。 そして起用されたのがアートディレクターの高橋俊之さんだった。当時の流れを本人はこう振り返る。
「90年代半ばから既に赤城乳業さんとは仕事をしていたんですが、2000年に入り、いよいよキャラクター開発をまかせてもらえるようになったんです。オファーとしては、それまで中学生のガキ大将だったキャラクターを生まれ変わらせ、より多くの人に愛されるものにしていくこと。そこで、アンケート調査で分かった『汚らしい』『汗がたくさん出すぎ』といったポイントに注目してイラストをリニューアルしていくことにしたんです」

キャラクターのリニューアル

 こうしてそれまで人気を博してきたキャラクターが改良されることに。とはいえ、ゼロからキャラを作り直すのでは、ここまで築いてきたものを全て失ってしまう。それゆえ、高橋さんが考えたのはこういう手法だった。
「いかにも駄菓子らしい良い要素は残すべきだと思いました。でも、アイスキャンディーは口に入れるものだから『汚い』というイメージを消費者に抱かせてはいけない。そういう素直な考えで残すべきところは残す、変えるべきところは変えていこうと」

 同時に、赤城乳業からは当時、トレンドになりつつあった3D風の仕上げを望まれてもいた。 だが、あくまで駄菓子として愛されてきた商品を綺麗に整えすぎるのはちょっと違う。結果、漫画の良さを感じさせる黒い線を残しつつ、立体的なキャラが創りあげられていった。
「でも出来上がった商品がコンビニに並んでいるのを見た時、CG風のキャラって弱いなと感じてしまったんです。つまり商品のキャラが持つべき強さがなくなってしまった。そこで再度、手を加えることにして、最終的には今につながるキャラになっていったんです」

 もとは中学生だったキャラを「永遠の小学生」という設定に。やや小さめだった目は一際大きくし、どことなく意地悪そうだった昔のキャラから、よりフレンドリーな風合いに変化させていった。このリニューアルは売り上げを強力に後押し。結局、2000年には販売本数1億本を突破し、見事、停滞期を脱することに成功するのである。そんな成果を上げた高橋さんにあらためて、成功するキャラのポイントはと問うと、こんな答えが返ってきた。
「そもそもガリガリ君が独立したキャラクターであるという意識が僕にはありませんでした。基本的にはアイス自体がガリガリ君であって、キャラだけが一人歩きしているわけでもなく、アイス、ネーミング、キャラが1つとなって消費者に認知されている。だからキャラになっている男の子のビジュアルが先行しないようにとは意識しています。万人に愛されるキャラがどんなものかという質問には答えられませんが、売れる商品に付随するキャラはどこまでいっても商品とセットであって、キャラだけが可愛い、カッコイイということでも成功しない、ということは理解しているつもりです」

アイス = キャラクター

「キャラがかなり人気を得てきて、様々なコラボレーションのオファーを別企業からいただくこ とも増えてきた。でも、これはキャラクタービジネスではないので、たとえばTシャツにしたいという申し出はお断りしているんです。一方、アイスの販促になりそうなお話しであれば積極的にコラボしていく。そのコラボ商品がアイスの形をしているとか、冷たいものだとか。1つの成功例を挙げると、アイスの形をした入浴剤ですかね。お風呂上がりにアイスを食べる、というつながりも感じられたのでこのコラボはお受けしたんですが、結果、入浴剤は100万個以上、売れました」

企業とデザイナーの信頼関係

 さらに話を聞いていくと、ガリガリ君ビジネス成功のエッセンスが幾つも透けて見えてくる。ここまで強く、万人に愛され、広く浸透したキャラが出来た背景には、極めてシンプルな意思決定システムもあった。
高橋さんによれば、出来上がったデザイン案に対し、赤城乳業があれこれ修正意見を出すということはほとんどない。基本的には信頼するデザイナーに全てを任せ、優れたアイデアがそのまま形になるというプロセスが功を奏したのだ。どんなアイデアでもいきなり100人を納得させることはできない。でも、少数の異論を全て反映する誤った民主主義では強いデザインは生まれないのも事実だ。
強烈に効くデザインには幾つもトゲがあるもの。そのトゲを抜くことなく、完成まで突き進めたのはひとえに、デザイナーを信頼し、「任せる」という赤城乳業のスタンスによるものだったと言えるだろう。

また、商品とイコールであるキャラをむやみに独り立ちさせないという部分については、「ガリプロ」の存在も大きい。これは、赤城乳業側の提案により、キャラの正しい扱いを行っていくため設立された、言わばキャラクターマネジメント会社だ。この「ガリプロ」があるからこそ、ガリガリ君はあくまでアイスのキャラとしての立ち位置を確保し続けられる。商品に付随するキャラのためにマネジメント会社まで設立するという発想は実にユニークであり、かつ、商品の販売を促進する上でも重要な施策だったと言えるだろう。
「もちろんアイスが美味しいということがなければここまでの成功はなかったと思います。でもデザインが売り上げに貢献した部分は少なからずあったとも感じています。ひとつは、狙いすぎて、あざとくならなかったということも大きかったかもしれない。キャラを売ろう、とにかく人気を獲ろうということばかり考えすぎると、そのいやらしい感じが消費者にも伝わってしまうし、たとえ成功しても一発屋的な存在になってしまうことも多い。
赤城乳業も、僕も、第一に考えているのは子どもたちに長い間、食べ続けてもらいたいということ。そして、アイスの売り場をもっと楽しくしていきたいということ。そんな気持ちが少なからず伝わっていたら嬉しいですよね。強くてシンボリックといったデザイン上のポイントは確かに外せませんが、ひょっとすると最も大切なのは、作り手側の一生懸命な気持ちとか、楽しんでほしいという素直な想いなのかもしれません」

健全なキャラクター育成の極意

 数々のキャラクターが巨万の富を生み出すこの時代。しかし数々の誘惑にも負けず、あくまでアイスのパッケージとセットになった立ち位置を忘れることなく、ガリガリ君は健全に育て上げられてきた、一口にキャラといっても、その存在意義は千差万別。
 ただ人気の獲得だけを考えるのではなく、その進むべき方向性を正確に見定めることが、キャラクター制作において最も重要なポイントなのかもしれない。

アートディレクター / 高橋俊之
1972年埼玉県出身。桑沢デザイン研究所グラフィック研究科卒業。
1997年に有限会社Gを設立。1999年以来「ガリガリ君」のパッケージ、CM、イベントなど幅広い分野のデザインを手掛け、同時に、キャラクターマネジメント専門会社「ガリガリ君プロダクション」において、同キャラクターのマネジメントを統括する。

赤城乳業株式会社
https://www.akagi.com

DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP TOKYO

TP東京がデザインの「今」を思考し、伝えるWEBマガジン。
ビジネス、ライフスタイル、エンターテインメント、フィロソフィーなど、
毎回、幅広い分野におけるデザインの成功例をテーマに、
最適解とはどのようなロジックで導き出されるものなのかを追求していきます。