DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP TOKYO vol.011

アートディレクションとは、
いかなるものか?
市場に響く、デザインの理由。

アートディレクター 赤迫仁さん インタビュー
2020.06.10

アートディレクションとは、
課題を探り出し、
それをどうクリアするか、
導き出すこと。

 あらゆるビジネスの展開において、アートディレクションは必須のプロセスとして組み込まれる。優れたアートディレクションがあってこそ、そのビジネスが成功する可能性は拡大すると言ってもいい。つまり、より多くの顧客から支持を獲得し、ビジネスを軌道に乗せるためには、アートディレクションやデザインがどのような威力を持つのかを深く知ることが肝要となる。

「商業デザインの場合、デザインは企業や商品がより良い状況になるための手段であり、その方向性を示すのがアートディレクションですよね。ならば、まずアートディレクターが行うべきことは、ひたすら案件に向きあうこと。それは、特徴や魅力はもちろん、なにより課題を探り出し、どうクリアするかを考える、ということです」

こう話すのは、エッジの効いたデザインで顧客との巧みなコミュニケーションを得意とするアートディレクターの赤迫仁さん。アートディレクションを手掛ける時は、ひとまず自分の好みを一切排除し、フラットに案件と向き合うことで、ようやく回答が得られると話す。

重視すべきは
その場にふさわしい
“違和感”の創出。

 赤迫さんによれば、アートディレクションのプロセスは大きく2つに分かれる。課題の特定と、問題解決に導くデザインの考案だ。

「たとえばクライアントから、この商品が売れている、手渡されたパッケージが消費者に支持を得ていると聞いたとしても、本当にその通りか?原因は?と疑うわけです。パッケージの色、形状、素材の影響なのか。実は本体よりPOP のコピーが効いているのかもしれない。店頭で並べられた状態、つまり、ユーザーが目にする実際の環境で、具体的な数字と印象的なニュアンスの両面から客観的に検証していくことが大切。それでようやく課題の特定ができるんです」

 そのようにして向かうべきゴールを定めた後は、いよいよデザインのプロセスに移行する。この時、アートディレクターが意識するポイントはどのようなことなのか、さらに深く、聞いていく。

「僕は、ユニークで個性が際立っているという意味で“違和感”という言葉をよく使うんですが、デザインするうえで、その違和感をどの部分でどうつくりだすかを考えています。派手な色が違和感になることもあれば、逆に地味なことも違和感になる。場合によっては、あえて真面目そうに見せることだって違和感になりえるわけです。とりまく環境によって、時と場合を考えてやることで、他と違う素敵な個性がうまれる。もちろん、その商品やサービス、企業自体のシズル感や特徴を体現することは必須ですが、その佇まいに特別な違和感が伴っていなければ、そもそも人の目には止まらない。僕にとっては自身の好みやセンスのような自分らしさなんかよりも、どうすればその案件に最適な違和感を創出できるかが大きなポイントで、興味のあることかもしれない。仕上がったものには、きっと自然と自分らしさは出てているんだと思いますが、結果論なんです」

クライアントと
アートディレクターの
良好な関係性

 アートディレクションを依頼する際、良くあるパターンが、クライアントが「赤」にしたい、「四角」のデザインでいきたいと方向性を指し示すケース。だが必ずしもクライアントが問題解決にふさわしいデザインを特定できているとは限らない。つまり、アートディレクターが絶対的なスキルを持っていれば、言わば「丸投げ」してしまったほうが上手くいくわけだ。その点について赤迫さんはこう指摘する。

「もちろん要望は一旦すべてお聞きするんですけど、それに対して良いこと悪いことをちゃんと伝えられるような健全な状態が大切ですね。でなければ、クライアントを納得させるための表現になってしまい、世間をないがしろにした的外れなものになることもありえます。ものづくりという視点で理想的な関係は、クライアントもアートディレクターも、同じ結果を求める一つのチームとして機能できるかどうか。お互い遠慮なく意見交換できれば、きっとそのチームは、ゴールに向かって最適な解を導き出せると思うんですよね。ただし、その前提としてアートディレクターに高いスキルがあること。クオリティの高いビジュアルや説得力のある発想を提示できるからこそ、クライアントも安心して一任できるわけなので」

ありがちな展開を排除し、
欲しい情報だけを詰め込んだ
会社案内。

 ここでアートディレクションの具体例を見ていこう。赤迫さんが手掛けた最新プロジェクトのひとつである、TP tokyo のリブランディング。その核である会社案内について、ページ構成からフォトディレクション、グラフィックの構築、紙の選定に至るまで、どのような思考回路によってデザインを進めていったのか。

「言い方は悪いですが、会社案内を手渡されてその内容すべてを真剣に読む人はほとんどいない、という現実と向き合うことがスタート地点です。経営者の挨拶や、組織図、企業理念から始まり、というのがよくある展開ですよね。そこに疑問を持って考えてみると、それは企業側の一方的な考えによるもので、受け手が欲しい情報とは大きくかけ離れていることが多いんです。会社案内なんて地味な印象ですが、ちゃんと狙ってつくれば、場合によってはCM や大規模なキャンペーンなんかよりよっぽど突破力のある広告になると思ってます。TP tokyo の場合でいえば、受け手が最も知りたいのは結局、どんな仕事をしているのか。だから、過去の仕事例をひたすら連続させるという、簡単に言えばケーススタディや実績集のようなスタイル。あとは存在感のある写真と最低限のレイアウトで見せているだけ。余計な内容は一切排除して必要なことだけを並べるという、結果としては極めてシンプルなことなんですけどね」

ブランディングを
成功させるために
大切にしていること。

用紙にはザラついた質感が強い印象を残す、ディープマットという銘柄を採用。ロゴ部分には艷やかなブラックの箔押しを施し、社名表記も英文のみというシンプルな見栄え。会社案内にありがちな体裁を極力排除したことが、ページを開いてみようという動機に直結する。

「どのページを開いてもすっと入っていけるように、TP tokyo が導き出した”アンサー” が見開きで掲載されているという読み切りの構造。仕事を見える化して速いスピードで情報を伝える単純明快な展開で、TP tokyo の魅力をしっかり体現できたのではないかと感じています」

 この会社案内制作を発端に、TP tokyo というブランドの整備を進めていく赤迫さん。ブランディングを行う上で重視すべきポイントを最後に聞いた。

「僕自身も一人のユーザーとして考えてみればわかるんですが、誰もが実は商品やCM のどれかひとつだけに反応しているわけではなく、商品、CM、サービス、店舗やロゴ、名刺、会社案内など、そのブランドに関するすべてをなんとなく見て、感じて、知らず知らずのうちにそのブランドの印象を決めていると思うんです。ですから、CM だろうと、会社案内やPOP だろうと、僕は企業が発信するものすべてが”企業広告”なんだと考えています。効果を出すためには、どれもすべて同じ意思のもとで一つひとつ丁寧につくっていくことが重要。そのためには、一気通貫するコンセプト、キーワード、表現の開発が大切なんだと考えています」

赤迫 仁(あかさこ ひとし)/アートディレクター
大貫デザインにてさまざまなプロジェクトに携わった後、2013年THE END 設立。商品開発や広告企画に始まり、CM・グラフィック・パッケージ・Web・空間などコミュニケーションに関わる全てのアートディレクションを行う。ADC、TDC、JAGDA、日本パッケージデザイン大賞ほか入選・受賞多数。

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