DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP TOKYO vol.007

ストーリーから生まれる、
ライカと歩むブランディング。

フォトグラファー 伊﨑真一さん インタビュー
2017.03.16

オリジナルブランドができるまで

 世界中のフォトグラファーにとって垂涎の的となっているライカ。その圧倒的な描写力に加え、工芸品のような魅力を備えたプロダクトの数々はドイツの誇りだ。そんなライカがオフィシャルに認める日本製カメラアクセサリーブランドが「Extended Photographic Material」である。
人気商品の「YOSEMITE STRAP」はクライミングロープにヒントを得て開発されたタフでスタイリッシュなプロダクト。その機能性、デザイン性にライカが着目し、オフィシャルプロダクトとして認められることになったのだ。

「Extended Photographic Material」の代表、伊﨑真一さんは世界的に活躍するフォトグラファーであり、実業家でもあるユニークな人物。そんな伊﨑さんに、オリジナルブランドが出来ていったプロセスについて聞いてみた。
「僕はもともと無印良品の社員からスタートして、そこでは自転車の担当でした。次にハマったのがバイクで、ヴィンテージバイクのショップに転職。タンクの色やタイヤの種類を変えることで全体の雰囲気が変化していく。そういったバイクのカスタムからデザインって面白いなと感じるようになったんです」

「すべてがつながっている」

その後、デザインを学ぶため、専門学校へ。そのスキルを武器に、今度はCDジャケットなど制作するデザイン事務所に入り、グラフィックの世界に没頭するようになる。 「その頃、裏原宿が全盛でアパレルブランドを成功させるとベンツのゲレンデに乗れる(笑)なんていう話をたくさん聞きまして。それで今度は自分でアパレルブランドを始めようと会社を作った。でも服なんて全く作ったことない人間がいきなり始めたもんだから大失敗する。そこで生活も苦しくなってしまって、もうなりふり構わず知り合いにデザインの仕事をくれと頼むようになって。するとそのうち、アートディレクションとかクリエイティブディレクションの仕事がどんどん増えてきまして。もう本当に成り行きでした」 その流れで手がけたのがカシオ・G-SHOCKの国際的なブランドプロモーションだった。この仕事では、海外を旅しながら世界中のクリエイティブと触れ合うことで、ようやくある気づきを得る。

「すべてがつながっている」

自転車やバイクといったプロダクトのカスタム、グラフィックデザイン、アパレルでの経験などが、スタイリッシュなブランドを構築するための重要なエッセンスとしておおいに役立ったのだ。そしてプロフェッショナルとしてのリズムをつかんだ伊﨑さん。アートディレクションの現場で、今度は写真を撮るという行為に興味を抱くことになる。

自分自身のブランディング構築

「G-SHOCKを始め、様々なビジュアルを制作する時、僕はアートディレクターとして全体を見回すけど、それぞれの部分はフォトグラファーやデザイナーに依頼しますよね。でもなかなか思い通りにいかないなと。たとえばフォトグラファーに、80年代のヒップホップ風にとか、70年代のサイケな感じでと撮影を頼んでも、相手が理解できないと全てを細かく説明しなければならない。  しかも著名なクリエイターだと費用もかかる。一方、その頃、僕は既にカメラを趣味にしていて、ライカも持っていた。それでよく考えたら他人にお願いする意味がわからなくなってきて、自分でやってしまおうと。

それまで一流フォトグラファーの仕事ぶりをアートディレクターという立場で見てきたっていうのもあって、現場での動き方とか撮影法といった基本的な部分についてはおおよそ分かってた。それがフォトグラファーとしてのスタート地点ですね」

 そこで、趣味で使っていたライカを仕事にも導入し始めた伊﨑さん。当時、ライカをメインの機材として使用するプロは少なかったこともあり、クライアントからも面白がられたという。ライカしか使わないフォトグラファーとして活動して現在で約6年。今ではすっかり知名度もアップし、業界での地位を確立してしまった。

「僕としては機材にこだわるというか、ライカで撮るという部分が自分自身のブランディングだった。もちろん技術も磨いてきましたけど、ライカしか使わないと言い張ったことがオリジナリティを生んだんです。ライカが積み上げてきたブランドのパワーを僕も吸収して大きくなった、という感じですね」

現在、自身のブランディング構築はさらに進化。質の高い写真作品の噂を聞きつけて、舞い込むオファーはひっきりなし。ところが依頼されて撮影する、という仕事は一切引き受けていないというのだ。自分の撮りたいものしか撮らない。そういうスタンスが自分の価値を高めると理解しているからだ。
「アメリカのヨセミテであるクライマーから、タフなカメラストラップが欲しいという話を聞いて、すぐ自分で開発してみようと考えた。日本製でね。このストラップを作って、発売して以来、僕はフォトグラファーとして、撮影オファーを受けないようにしようと思った。これからカメラのアクセサリーブランドとしてやっていくのであれば、僕自身にカリスマ性が必要で、相応のストーリーが求められる。撮影オファーを受けないのはそういう理由です。ライカというブランドにふさわしい自分を作り上げなければいけない。しかも超高速で自分自身のブランディングを構築していこうと思っていましたしね」

 写真を買うというカルチャーがまだまだ浸透していない日本とは異なり、欧米では質の高い作品なら高額で買い手がつく。ライカで撮影された伊﨑さんの圧倒的な作品は、写真の本場において高値のつくアートピースとして広く認知されているのだ。

『どれだけ物語が語れるか』

 開発したカメラストラップのブランディングも完璧だ。大手量販店や小さなカメラショップまで、商品を販売させてほしいというオファーはたくさんあった。でも、伊﨑さんの答えはノー。こだわりの顧客が集まる3店にだけ限定して販売してもらうことにした。
「ライカストアで販売するというのがひとつのゴールだったので、そこを目指してブランディングしていったんです。僕は世界中のメディア関係者に知り合いが多くて、様々なメディアに紹介していただいたり、著名フォトグラファーにお渡ししたりして、ストラップの認知度を高めていった。結局、ライカからオファーをいただいて、現在、世界20ヶ国以上のライカストアが代理店になって展開してもらっています。でもこれからカメラアクセサリーだけを次々と発表していこうとも思っていないんです。ストラップの次は炊飯ジャーかもしれないし、掃除機かもしれない。結局、今の時代、モノ自体にもブランドにも自分自身にも、ストーリーが必要なんですよね。どれだけ物語が語れるかどうか。その物語に魅力を感じて、人はブランドを愛してくれるようになる」

 その時々で興味のある方向へ入り込み、その分野でセンスや技術を吸収して次々とステージを変えてきた伊﨑さん。そのプロセスの中でブランディングとは何かを考え続け、自身のブランドを高めることに成功したというわけだ。様々なジャンルの経験がそのまま物語となって、そのストーリーがブランドを輝かせ、人々を吸引していく。こうした「ストーリー作り」という視点は、あらゆるジャンルのブランディングに通底する正攻法なのかもしれない。

Extended Photographic Material(エクステンデッド フォトグラフィック マテリアル)
フォトグラファー 伊﨑真一と、ミュージシャン 田中知之(ファンタスティク・プラスティック・マシーン)の二人で立ち上げたブランド。プロダクト制作のほか、写真撮影、映像制作、PRプロデュース、イベント企画など多岐に渡る事業を手がける。
YOSEMITE STRAPは発売開始1年で1万本を販売し、現在も好調な売れ行きが続いている。

https://www.extended.jp

DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP TOKYO

TP東京がデザインの「今」を思考し、伝えるWEBマガジン。
ビジネス、ライフスタイル、エンターテインメント、フィロソフィーなど、
毎回、幅広い分野におけるデザインの成功例をテーマに、
最適解とはどのようなロジックで導き出されるものなのかを追求していきます。