DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP TOKYO vol.009

人気雑誌の仕掛け人に訊く。
ファンを生み出すメソッドとは?

THE DAY 編集長(元GO OUT 創刊編集長)
竹下充さん インタビュー
2017.06.15

『等身大の目線で作り始めた』雑誌

 30年ほど前であれば、山登りといえば主に中高年の娯楽であり、若年層はもっぱら海へ、というのが日本におけるアウトドアアクティビティの位置づけだった。ところがいまや、老若男女が国内外の山や高原でキャンプやフェス、ボルダリングなどを楽しみ、プレーグラウンドとしての山間部はファッショナブルなエリアであるとさえ、多くの人々に捉えられている。それほど日本のアウトドアブームは近年、急速に盛り上がりをみせ、フィールドでの遊び方は多様性を極めている。 この大きな潮流に乗り、猛スピードで認知度を高めてきた雑誌が「GO OUT」だ。出版ビジネス、とりわけ雑誌のマーケットがシュリンクしていくなか、異例の存在感を示し続けるこのメディア。その成功の要因について、07年の創刊時から13年まで編集部の中核で指揮をとっていた竹下充さんに話を聞いていく。

「特にユニークな方針を打ち立てて雑誌を立ち上げた、ということではなかったんです。

もともと僕はストリートファッションが好きだったんですが、20代後半になって、そろそろ身につけるものも変えていかないとなと思うようになった。それで、自分の立ち位置にちょうど合っていると感じたのがアウトドアファッションだったんです。GO OUTを立ち上げるタイミングでした。当時は、音楽フェスってちょっと危ない人とか、ヒッピーっぽい人が大半だろうくらいに想像してたんですけど、実際、行ってみると、そこにいるのは意外にもオシャレな人が多かった。そこで、この人たちをスナップしていったらそれだけでも面白いと。そういう自分自身の肌感覚が雑誌の方向性につながっただけなんです。言い換えれば、ただ等身大の目線で作り始めた雑誌ということですね」

「気の向くまま」作る

 今でこそ、ファッショナブルなアウトドアギアが主流だが、当時はまだ機能性だけを重視した無骨なギアが大半を占めていた時代。ようやくマウンテンリサーチやホワイトマウンテニアリングなど、機能性とファッションを両立させた幾つかのブランドが産声をあげた頃だった。
「アウトドアは危険を伴う遊びだということで、ファッションの奴らが入ってこれるような領域ではないという風潮もまだあった。だから取材はもちろん、僕らの雑誌にギアを貸出してくれないブランドだって多かったんです。でも、感度の高い読者層は既にいてくれて、創刊してすぐに手応えも感じることができた。ふつふつとした状況に、GO OUTが火を付けたかもしれないという感覚はありましたね」

 このような滑り出しができたのも、竹下さんはじめ編集部のメンバーが自らの目線でアウトドアブームの幕開けを見定めたからこそ。雑誌をビジネスとして成功させるというプランより、編集部の純粋なアウトドアギアへの興味を優先させ、その「熱さ」が読者を突き動かしていったのである。自らの雑誌作りにおいて、成功の法則や厳密なルールなどはないと謙遜する竹下さん。敢えて言うなら、「気の向くまま」作る方が読者も面白がってくれるのではと話す。

雑誌を核とした多角的な展開

「たいそうなことは言えないですが、編集者のリアルな感覚がにじみでるからこそ雑誌は面白い。そういう雑誌が減ってきてしまったことが、市場の縮小につながってしまったとも思えますよね。もちろんマーケティングや広告ありきで誌面を作ることも大切なんでしょうけど、雑誌ってそればっかりだから面白くないよねと言われるようになったんじゃないですか。既に大人気になっている現象や人物を取り上げるんじゃなく、それ何?とか、この面白い人は誰?という驚きを読者も求めているわけでしょう。それは昔も今もあまり変わっていないような気がします」
 雑誌の認知度アップでクライアントからの評価もアップし、今では日本最大級のイベント「GO OUT CAMP」や、「GO OUT Jamboree」など、立体的な動きも定着してきた(GO OUT CAMP)。直近のイベントでは参加者が1万9000人を突破。雑誌やイベント、通販事業と、GO OUTブランドはブレなく多角的な展開を推し進めている。雑誌が売れないと嘆くどころか、雑誌を核として幅広くファン層を拡大し続けているのだ。

ルールや方針を決めすぎない

「GO OUT」成功後も、雑誌メディアの立ち上げには依然、意欲的な竹下さん。13年には「THE DAY」を創刊させ、こちらの雑誌も好調にドライブさせ続けている。GO OUT創刊から5年を経て、東日本大震災に見舞われた国内には以前とは明らかに異なる空気が流れ始めてもいた。生活を見直す、ライフスタイルを豊かにといったソフトの部分も重視し、そのムードの延長線上にあるアパレルやギアなど、ハード部分も網羅。渋谷のクラブで遊びまくっていた年代は、やがて、海沿いで暮らしながらテンポをゆるめて生きる方がフィットするように。竹下さん自身の年齢の重ね方がそのまま投影されたような「THE DAY」は、ゆるやかに、でも着実に読者層をつかんでいった。

「まとめてしまうと、アメリカ西海岸風ということになるんですけど、コンテンツとしては毎号、コロコロ変わってもいるんです。時には思いっきりカルチャーに寄ってみたり、あるいはガジェットで押してみたり。マイナーチェンジを毎号繰り返しているとも言えるんですけど、それも面白いかなと(笑)」  ルールや方針を決めすぎてしまうと、益々、加速する時代のスピードについていけない。それゆえ、ある種のゆるさ、柔軟性をもって雑誌作りを進めていくことが、功を奏することもあると竹下さんは言う。
一年経てば、誰しも少しは指向や考えが変わるもの。そんな当たり前の現実に対して忠実に向き合うことが、雑誌の作り手に求められるスタンスなのかもしれない。

そうなると気になるのは、次に興味が向く新たなテーマだ。最後に、構想の中にある新雑誌のテーマについてズバリ、聞いてみた。

「いくつかありますけど、今、最も興味があるテーマは”家電”ですね。機能はもちろん大切なんだけど、やっぱり自分が手に入れるとしたらデザインがいい物を選びたい。かといってあまりにも高額なものが並びすぎていても現実味がない。機能も見た目もレベルが高くて、しかも実際に購入できるような家電を集めた雑誌。そういうさじ加減の雑誌を作りたいと考えているところなんです」
いくら数字や裏付けがあっても、自分の触手が動かないテーマには手を付けない。一方、確証がなくても自分の身の回りの人間と共有できる肌感覚や、自身の直感には素直に従う。ちょっとした野性味さえ感じさせる竹下さんの雑誌作りは、やっぱりこれからも面白くなっていきそうだ。感度の高い編集者が集まり、次の号はどうなるかわからないという雑誌をどんどん作り出せば、きっと市場はまた面白くなっていくだろう。そんな近未来に、ちょっと期待したくなってくる。

竹下充
1979年広島県生まれ。三栄書房 事業企画部。大学卒業後に大阪のストリートファッション誌でキャリアをスタート。「FUDGE」の編集などを経験した後、「GO OUT」創刊編集長を務め、13年からは「THE DAY」編集長。ファッションを始めとしたユースカルチャー関連の人脈を活かし、次々とユニークな雑誌を編集、世に送り出す。

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