DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP TOKYO vol.020

家庭の食卓を楽しく、美しく、美味しく。
幸せを運ぶ「幸也飯」の思い、こだわりとは?

「幸也飯」代表 / フードクリエイター 寺井幸也さんインタビュー
2022.2.22

パーティから生まれた
斬新なおいなりさん

 料理家・寺井幸也さんプロデュースのデリ&ケータリング店「幸也飯」が話題を呼んでいる。選びぬかれた旬の食材、味付け、そして自然の美しさと美味しさを体現する盛り付け。大胆な発想を起点としたクリエイティブな食を手軽に家庭で楽しめるとあって、コロナ禍の現在、幸也飯をライフスタイルに取り込もうとする感度の高い消費者が増え続けているのだ。

 幸也さんが食の世界で名を知られるようになったのは、今から7年ほど前のこと。

CMや女性雑誌、著名ブランドの撮影現場、パーティなどで始めたユニークで華やかなケータリング、フードスタイリングがファッションやメディアなどの各界で人気を集めたことが発端だった。ところがコロナによって大規模なパーティ、イベントが一気に消滅。幸也さんはこれを機会にお弁当や作り置きといった個人ユーザーとの関係に着目し、大きく方向転換することとなった。
「幸也飯の始まりは女性誌などで活躍するモデルさんや編集者さんの集まるホームパーティ。このおいなりさんもそんなパーティで生まれた発想が原点です。ある時、人気モデルの紗栄子さんが誕生日を迎えるということで、撮影現場の編集さんやライターさんたちから紗栄子さんの好きなおいなりさんを華やかにアレンジしてほしいとリクエストがあった。

でもおいなりさんって見た目が地味ですよね(笑)。そこで他の華やかな料理に埋もれないような可愛いおいなりさんを作ろうと。モデルさんたちって表に出るという職業柄、控えてる食材があったり体質を管理するプロフェッショナルなんです。グルテンフリーやヴィーガンなど様々な食事方法の方がいるので、こうやって具材を可視化できるのも都合が良かった。これが始まりとなって、オープンいなりが広まっていったんです」

テイクアウトのパッケージにも
愛とこだわりを

 幸也さんが食のクリエイションに力を注ぐようになったのは、幼い頃の体験から家庭料理の質を向上させたいと考えたからだった。

「僕は母子家庭に育って、小さい頃、忙しい母親の姿をいつも見ていました。そこで考えたのは忙しい母親がお弁当のようなものを買ってきて、そのまま食卓に出す時ってどこかにちょっとした罪悪感を感じているんじゃないかということ。そのような食事を出される子供の側も、ああ、今日はお弁当ねというような残念な感覚を覚えることってあるでしょう。そんな雰囲気を変えたいと僕は思ったんです。現代人は忙しいですし、作り置きとかもできない状況が日常的にあるはず。そんな時に、出す方も出される方もちょっとうれしくなるというか、幸也飯だったら体にいいし、美味しいしということで罪悪感とか残念な気持ちを払拭できればいいなって」

 そんな幸也さんが近年、強く意識しているのが容器の問題だという。

「毎日、お弁当として様々な家庭に食を届けるにあたって、僕らは体に入っていく食べ物だけじゃなく、ゴミの問題もきちんと考えなければならない。提供する食の量がどんどん増えていく、ならば、ゴミの質を変えていこうと。地球とともに歩む、そんな思いが伝わるような容器の提供とか、店作りを意識しているんです」

 そこでコラボレーションしたのがTP tokyoのサステナブルパッケージ「TAKE PACK」だった。共同開発によって完成したパッケージ「NUCO(ヌコ)」は、猫の肉球をイメージしたユニークな仕上がり。料理の詰めやすさはもちろん、視覚的にも美味しさを最大限表現することにこだわったNUCOは、パルプモールド(紙)でできているので可燃ゴミとして処分可能。耐水、耐油加工も施されているためテイクアウトに最適なパッケージとなった。容器売上の一部は動物関連団体へ寄付されるという仕組みも作った。これも保護猫と一緒に暮らす幸也さんの、動物愛護に向けた気持ちの現れ。環境配慮、動物愛護の両面からサステナブルなパッケージは、すでにユーザーからも好評だ。

「これまで容器選びには本当に苦労していたんです。環境への配慮とか、料理の見た目といった選ぶポイントをクリアするような容器はどれだけ探してもなかなか見つからなかった。ですからNUCOにはとても満足していますね。この容器を通じて、僕らの気持ちが少しでも伝わればうれしい」

家庭の食卓を
もっと楽しく、美味しくする秘訣

 テイクアウトの機会を激増させたコロナ禍。今、家庭の食卓にも大きな変化がもたらされている。どうせなら、家庭での食卓にできるだけの美味しさ、楽しさをもちこみたいと考える人も増えている。食卓に少しでも彩りと豊かさを。そんな人々に向けて、幸也さんからアドバイスをもらった。


「ひとつひとつの食材が輝くというか、美しいのはどのタイミングか、どんな調理方法がいいのかなっていうことをしっかり考えること。考えるという機会が増えれば増えるほど、その食材にあった最適の調理法だけでなく、良い食材の選び方も自然とわかるようになってくるんだと思います。あとは目に見える部分だけでなく、見えないもの、たとえば香りとか音などを重視すると料理は楽しくなるし、食材の美味しさを引き出すことができるようになってくると思う。音や香りの経験則で焼けた、揚がったというタイミングを感じるといい」

 また、自炊することにこだわりすぎないことも、家庭での食を楽しくするコツだとか。出来合いの料理を買ってくることは決して悪いことではないのだ。


「無理をしないのが一番ですよね。家にいることが多いから自炊しなきゃとか、自炊するならきちんと考えて作らなきゃとか。そうやって少しづつハードルが上がっていって、料理をするのが億劫になる人はとても多い。だから、『今日はどうしよう』『面倒くさいな』と思った時は、もう自炊はやめて何かを買いに行こうと頭の中を切り替えるといいでしょう。デパ地下とかで見比べながら買うのを楽しむ。通販でも美味しくて体にもよく、リーズナブルなものは買える。食卓の中に買ってきたものが1品、2品混じっていて全然いい。食事って減らすことができないもので、そこにストレスがかかるのは苦しいでしょう。無理なく家で過ごすためにそんな余裕がほしいですよね」

 そして幸也さんが挙げるポイントは、買う食材の産地やそれが作られた背景にあるストーリー、世界観もしっかり吟味すること。金額や容器も含めて消費者が食を購入する際のリテラシーを向上させるのは楽しいことでもあり、日本の食文化が発展することにもつながると話す。

「僕が考案した料理やお弁当に興味を持っていただけたら、どんどん真似をして、考えて、作ってみて、それぞれの家庭で美味しさを追求してほしいと思っているんです。幸せを届けたいと思って食を提供しているので、幸也飯を通じて、多くの人に幸せが波及していけばこんなにうれしいことはありません」

寺井幸也
2015年「幸也飯」をケータリング事業としてスタート。大規模なパーティ、イベントなどで独自のアイデアや料理の手腕が人気を博し、フードスタイリング、レシピ提供、飲食店のプロデュースなど幅広く活躍するように。2021年7月には「幸也飯」渋谷 東急フードショー店が2号店としてオープン。華やかな見た目と化学調味料などを極力使用しない安心安全かつ旬を大切にしたメニューで多くのファンを魅了している。

https://yukiyameshi.jp
https://www.tokyu-dept.co.jp

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