DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP tokyo vol.010

心を躍らせる、
リアル店舗の作り方とは?

IDEE 自由が丘店 インタビュー
2018.04.18

イデーに学ぶ豊かなライフスタイル

 かつては一般大衆にとって共通の話題を提供していたTV、新聞、雑誌といったマスメディアの求心力が近年、急速に低下しているように思える。
ネットの勃興を背景に、すべての人が想いを発信し、誰でもメディアを構築できる現代。不特定多数に向けたメッセージはどうしてもボヤけてしまうし、大手メディアが唱える「トレンド」より、身近な仲間や共感できるインフルエンサーの口コミが強大な力を有するようになった。言い換えれば、個々の消費者は、自分向けに最適化された情報や商品、サービスをより強く求めるようになったのだ。同時に、大量生産による薄利多売でビジネスを上手くドライブすることは非常に難しくなっている。

より細分化した消費者のニーズに、商品やサービスをどう対応させていくか。欲しいと思う対象物を消費者自らがカスタマイズできるという設定はもはや当たり前で、商品を提供する側には、顧客へどんなカスタマイズの手段を用意するかが今、まさに問われている。

顧客との距離感

 このような時代に、顧客の心を動かすリアル店舗とはいかなる形態が理想なのか。こだわりの家具やデザイン、アートなどを販売するイデーショップ 自由が丘店のキーマン2人に話を聞いていく。
「どんな形が正解なのかは正直、わかりません(笑)。でも店舗のあり方として押し付けがましくならないようにとは意識していますね。今、店内には家具だけでなく様々なアートピースを置いているんですが、これは生活の中にアートをうまく採り入れてみてはいかがでしょう、という提案なんです。でも、これが絶対に良い、という見せ方にはしたくない。お客さんに選んでもらうスタンスを大切にしたいんですよね」
 こう話すのは、イデーショップ自由が丘店店長の奥康宏さん。自由にカスタマイズを楽しむ場所がイデーショップの実店舗だと説明する。店に並ぶのはアートと言っても世界的なアーティストによる数十万円の作品ではない。数万円から気軽に購入できる上品なアートをセレクトすることで、幅広い顧客に向けた豊かな生活の提案を試みているという。

「そもそもイデーのコンセプトには”生活の探求”というキーワードがあって、お客さんそれぞれが自分に最も最適なモノやスタイルを選び取ってほしいという想いとともにビジネスを続けてきました。どういう形が理想かというのは人によって異なるはずですが、一言で言えば、豊かな生活を実現してほしいということになりますね。その一つの方法がアートを採り入れるということかもしれない。決して押し付けや決めつけはしないですが、次々と様々な提案をしていければとは考えています」

 これくらいの「加減」が顧客には心地良いのだろう。時代に合った顧客との距離感をイデーは熟知しているようにも思える。店側から一方的に提案するのではなく、顧客が選び放題というわけでもない。顧客からしてみれば、より良い形を見つけるための最適なパートナーといった立ち位置だ。イデーショップ 自由が丘店のMD担当 大島忠智さんはこう続ける。
「お客さんと一緒に考えていく、というスタンスは大切にしているかもしれませんね。今、思うのは大量にモノを作って大量にモノを買って、結局は捨てるというサイクルがもう限界だし、その繰り返しが豊かではないなということ。僕らがやんわりと提案するのは、社会が向かっている方向に対して、人々の生活はどうすれば豊かになれるかというひとつの回答。それは決して高価ではないけれど何十年と愛着を持てそうな家具かもしれないし、生活を新しくしていこうと考えている時間こそが豊かなのかもしれない。そう考えると、販売しているのは形のあるモノかもしれませんが、僕らが提供しているのは無形のアイデアなのかもしれません」

それぞれのストーリー

 そんな顧客との距離感をキープしつつ、イデーが新たに注力しているのが「本」を利用した生活の提案だ。イデーショップ 自由が丘店では家具やアートがセンス良く並ぶのと同様、新旧の本が要所要所に置かれるようになっていくという。その主旨について、大島さんはこう説明する。
「今は、3階の一部だけで本を展開しているんですが、他のフロアにも本の置き場を増殖させていこうと考えているんです。イデーのショップにはキッチン、アパレル、インテリア、プランツといったカテゴリー別にモノを置いています。これらをどう組み合わせればいいのかというアイデアやヒントを提供するのに本はいいツールだなと。モノを見るだけで部屋の構成や暮らしぶりが想像できる方はいいですけど、そうでない方もたくさんいるはず。そういう人たちにとって本は想像を膨らませる有効なツールになり得るでしょう。やっぱりネットでの通販じゃなく、リアル店舗に来ていただいているということで、この空間にいる時間を楽しんでいただきたいし、自分だけのアイデアで心地よいオリジナルの空間を作っていただきたいという想いもある。そう考えると、本は適度に余白を持った最適な媒体なんです」

 ブランド側があるストーリーを構築し、そのストーリーを顧客がそのまま受け入れるという時代は終わりつつあるのだろう。感度の高い顧客はお仕着せのストーリーでなく、自らのアイデアでストーリーを紡ぎたいと考えている。ブランド側にはそんな顧客の欲求を高める場所づくりと、時代に合ったアイデアソースの提供が求められているのかもしれない。

IDEE 自由が丘店
イデーは1975年、黒崎貿易株式会社としてスタート。ヨーロッパのアンティーク家具を輸入販売し、感度の高い顧客の支持を得るようになっていく。現在では、オリジナルの家具販売のほか、雑貨、アート、アパレル、植物など、生活に関わるプロダクトを幅広く展開。自由が丘店、二子玉川店、六本木店など、それぞれの個性を大切にした店作りが好評を得ている。

https://www.idee.co.jp

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