DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP tokyo vol.018

ショップから漂う「本物」の薫り。
共感を呼ぶのは、オニバスコーヒーの
どこまでもナチュラルなスタンス。

オニバス・コーヒー 代表取締役 坂尾篤史さん インタビュー
2021.4.16

サードウェーブコーヒーの文化は
日本に定着したか?

 日本のコーヒー文化にサードウェーブのトレンドが根付いて久しい。念のため、サードウェーブとは何かをおさらいしておくと、まずは産地からコーヒーカップまでの経路が明確である点。これはトレーサビリティ(追跡可能性)と呼ばれ、口に入れるコーヒーの安全性や産地の利益まで思いを巡らせることが、現代的かつ理想的なコーヒー文化のありかただという思想だ。さらには、深煎りが前提であったセカンドウェーブに対し、サードウェーブでは浅煎りが基本となる点。浅煎りだから豆本来の個性を楽しめ、これこそが現代的なコーヒーの楽しみ方であるという思想が、サードウェーブの中核を成す。今、なんとなくオシャレだ、トレンドだと感じられるコーヒーショップの大半は、こうしたサードウェーブにカテゴライズできるのではないか。そのように感じる消費者が増えたということはつまり、日本にもサードウェーブのトレンドが定着しているということだ。

 アメリカ西海岸エリアを発祥とするこうしたサードウェーブの流れは2000年以降、ヨーロッパやアジアに波及。世界各地でオーガニックかつファッショナブルなコーヒー文化がトレンドとなっているのは周知の事実。でも、本当に幸せなコーヒー文化は日本に根付いているのだろうか。我々はコーヒーを心から楽しみ、そのことで豊かなライフスタイルを実現できているのだろうか。

コーヒーショップでの時間を
朝のルーティンに

 八雲や中目黒、道玄坂や奥沢など国内では5店舗で展開する「オニバス・コーヒー」。若きオーナーである坂尾篤史さんに、なぜこのショップをスタートさせたのか、聞いてみた。
「2006年のことでした。オーストラリアを旅していた時、ひとつのキッカケがあったんです。ほとんどの人が毎朝、お気に入りのコーヒーショップで素敵な時間を過ごす。もちろん街にはカフェが驚くほどたくさんあって、店の人やゲスト同士で他愛のない会話を楽しみながら美味しいコーヒーを飲み、そこから一日が始まるというカルチャーが根付いていると感じました。そういう習慣がなんだかいいなとシンプルに思ったんです」
 かつては建築関係の仕事をしていた坂尾さん。東京での生活は、コンビニで朝ごはんを買って職場へ急ぐというのがお約束の毎日。家や会社の近くでコーヒーとともに朝の楽しい時間を過ごすというオーストラリアの日常風景に、大きな刺激を受けたのだという。

「毎朝、お気に入りの店でコーヒーを飲みながら少しの間、ゆったり過ごすってやっぱりいいじゃないですか。日本にはそういうカルチャーがないなと。じゃあ自分でそのような場所を作ってみたい、文化を根付かせてみたいっていうのがオニバスを始めたひとつの動機です。オーストラリアのカフェって昼の2時とか3時にクローズするのも当たり前で、バリスタたちは午後の早い時間から仕事帰りにサーフィンなんか始めちゃう。そういうスタイルもカッコいいなと思いましたね」

 オーストラリアでそのような経験をした後、バックパッカーとしてアジアを巡った坂尾さん。アジアの各地でもカフェの価値を体感する。
「世界中から集まるバックパッカーにとってカフェは貴重な情報交換の場。多様な人が集まり、それぞれの情報を交換しあって、またそれぞれの目的地へ出かけていく。そんな場所を自分で作ってみたいと、帰国後、思いを具体化させていったんです」

オニバスコーヒーが体現する
ナチュラルなデザインとは?

 ある日の昼下がり。サードウェーブを体現するオニバスコーヒーには思い思いにゆったりとした時間を楽しむ人が集まっている。人のぬくもりを感じさせる店舗のデザインやリラックスできる空間、そしてなにより香り高く美味しいコーヒーが多くの人を惹きつける理由だ。「デザイン」という観点でどのようなこだわりがあるのか、坂尾さんはこう話す。

「僕らはコーヒーを提供しているので原材料にこだわるのは当たり前なんです。クオリティという意味では他のショップが追随できないようなものを扱おうっていう方針。これも当たり前なのかもしれませんが、トレーサビリティとサステナビリティはコーヒーショップの本質だと思っています。コーヒーを提供しているのにその豆がどんな農園で作られているのか知らないなんてあり得ない。だから僕自身、世界中の農園へ自ら買い付けに行きますし、現地で感じた豆の良さをダイレクトに東京のショップで伝えていきたいと考えています。でもトレーサビリティやサステナビリティにこだわったショップですって大声でいうのもやっぱり違う気がする。今の時代、企業として当たり前のことですし、そのようなキーワードというよりコーヒーそのものの味とかショップの空気感をシンプルに気に入ってもらえれば嬉しいですよね」

 そんな会話を重ねながらふとあたりを見回すと、趣のある床材が目に止まった。ショップ全体のナチュラルな雰囲気を演出するなんとも言えぬ温もりが印象に残る。

「これは千葉にある日本酒の酒蔵”寺田本家”さんからいただいた材なんです。自然農法でお酒を作っている老舗なんですが、蔵を壊すと聞いてその材をいただいた。僕らがその材を加工して床に貼ったんです。もともと知り合いで、彼らが長年使ってきた蔵だからそこには優れた菌が住んでいたり、酒蔵のストーリーそのものが染み付いているかもしれない。そういう材を床に使えば僕らの店も長く続くんじゃないかって。そういうストーリーを強調するんじゃなく、ナチュラルに採り入れたいという気持ちはあるかな」

 毎日、大量に出るコーヒー滓もゴミにするのではなく、再利用できる道を模索。三鷹の農家に依頼して、このコーヒー滓を堆肥として再生することにした。その堆肥は「COFFEE SOIL」としてショップで販売もしている。ナチュラルなアイデアと人脈、工夫によってユニークな循環が実現したのだ。

コーヒーをメディアに
ゆっくりと広がるそれぞれのストーリー

 閑静な住宅街で知られる八雲の街。この地を選んだ理由について、坂尾さんはコーヒーを飲みながらこう口にした。

「住宅街に店を構えたいなって。街に溶け込むような店を作りたいという思いがありましたから。まだまだオーストラリアで見たような朝の風景には行き着いていませんが、店で出会った人たちが仕事でコラボレーションするようになったとか、うれしい話は聞きますね。自然に人が出会える場所になりつつある、そこから新しいなにかが生まれるっていうのはやっぱり東京ならではなのかな」

 コーヒーをひとつのメディアとしてゆっくりと人々のストーリーを演出していきたいと話す坂尾さん。今後の展開についてはこう語る。
「いろいろやりたいことはあるんですが、ひとつは、自然が豊かな郊外型の店舗をあらたに展開するということ。僕らのショップを気に入ってもらうのを入り口に、その場所の自然を感じる、楽しむっていう構図を作り出せたら面白いかなと。僕らのコーヒーショップを起点に、その人のライフスタイルがほんの少しでも良い方向に変わればいいなというのが大きな方向性ですね」

 当たり前のようにサステナビリティの思想を身体に染み込ませ、ナチュラルな形でその想いを具現化しているオニバスコーヒー。声高にアピールしなくても、鋭い消費者には本物の香りがきちんと伝わるもの。コーヒーによって、産地も関連業者もスタッフもゲストも皆が少しづつハッピーになれればいい。そんな想いが共感を呼び、さらなる良好な循環を生んでいくのだ。

オニバス・コーヒー
バリスタ世界チャンピオンの店で修行を積んだ後、坂尾さんが2012年に立ち上げたコーヒーショップブランド。奥沢、中目黒、八雲、道玄坂のほか、ベトナム・ホーチミンにもショップを展開。豆の質にこだわったスペシャルティコーヒーのほか、厳選したコーヒー関連グッズ、オーガニックな思想で開発したユニークな石鹸や堆肥などを広く販売する。

https://onibuscoffee.com

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