DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP TOKYO vol.015

コロナ禍で変化のきざしを見せる、
東京の自転車事情。
「街を楽しむ」トレンドの先鞭をつけた tokyobikeの先見性にフォーカス。

tokyobike 代表取締役 金井一郎さん インタビュー
2020.10.16

日本はいまだ自転車後進国。
自転車専用レーンの拡充が大きな課題に。

 コロナによって激変を迫られ続ける世界。未知のウイルスからの防御ありきで、仕事も、エンターテインメントも、食も、教育も、すべてが新しい様式を強いられている。なかでも人々の「移動」には大きな制約がつきまとう。不特定多数の人間が交錯する公共交通機関はどうしてもコロナ感染のリスクを意識せざるを得ないからだ。

 そこで注目されるのが自家用車や自転車など、三密を避けながら自由に移動できる手段である。とりわけ自転車の価値を再認識している東京の住人は間違いなく増加しているはずだ。圧倒的に充実する東京の鉄道網を前提に、電車での通勤、通学が当たり前だったこれまで。自家用車やバイクでの通勤、通学は渋滞の影響を受けるため、躊躇しがちだ。だが、自転車であればと頭を切り替える東京人が増えていることは容易に理解できるだろう。

 とはいえ、そんな東京都民にとって日本の道路事情は現状、優しいとは言えない。 あらためて世界各国の事情を見てみれば、自転車ユーザーにとっていかに東京が不利な場所かが鮮明となる。

たとえばデンマークの首都・コペンハーゲンにある「サイクルスランゲン」は自転車専用の海上高架道だ。自動車とも歩行者とも交錯することなく、かつ眺望抜群の自転車専用のハイウェイが首都に存在するのである。あるいは英国の首都・ロンドンで20年かけて建設が予定される「スカイサイクル」は歩道よりも自動車用の高速道路よりもさらに上層に全長220kmもの自転車専用ハイウェイを作るという試み。

各所には200ほどの出入り口が設けられる予定で、1時間に12000台もの自転車通行が見込まれているという。また米国・ニューヨークでは「パーキングプロテクテッドバイクレーン」なるものがすでにお目見えしている。これは自動車の路上駐車用スペースと歩道の間を自転車専用レーンとして利用するというもの。自転車は駐車されている車両の壁によって、激しく行き交う自動車からも、歩道の歩行者からも独立したレーンを安心して走れるというシステムだ。

 自転車先進国と呼ばれるオランダやニュージーランドでは全国的に自転車専用レーンが整備され、自転車で国中を安心して走れるシステムも確立。特にオランダなどでは、自転車ユーザーの権利が強く保護され、歩行者や自動車が自転車を優先させるという文化が国民に浸透しているのだ。当然、各先進国はCO2削減と交通事故の減少を見込み、長年に渡ってこのように都市における交通網のデザインを進化させてきた。翻って日本はどうか、言わずもがなの状況だ。

テーマは「TOKYO SLOW」
tokyobikeのフレッシュな視線。

 コロナの蔓延をキッカケに東京でも自転車の価値が再定義され、専用レーンが充実する流れになれば、それは歓迎すべきことだろう。そもそも比較的、平地の多い東京は自転車での移動に適したエリアなのだ。レトロモダンな観光地として近年、注目を浴びる東京・谷中に本拠を置く、自転車ショップ「tokyobike」の金井一郎さんはこう話す。

「僕の感覚では、東京の人って古くから自転車を愛用しているんですよね。だけど行政がまったくついてこなかった。車中心の社会で進んできたんだと思います。そういう流れが少し変わってくるのかなという雰囲気も出始めてはいてね。専用レーンも少しづつ増えてきて、変化も感じます。そもそもコミューターとして見た時、自転車っていう乗り物は非常に優れている。速度だって出せるし、電気もガソリンも使わないし、運動にもなるでしょ。東京って結構、気軽に移動ができる平地が多いから、専用レーンがもっともっと整備されて、自転車が増えることは東京の人にとって良いことなんだと思いますね」
 

そんな金井さんは東京の自転車カルチャーを牽引するひとりと言っていい。「TOKYO SLOW」をテーマに掲げ、オリジナルの自転車をデザインして販売。20年以上も前から自転車のポテンシャルに着目し、自転車本体やパーツの開発、レンタルバイクやイベント開催など多角的に自転車ビジネスを展開し、ユニークな自転車のマーケットを開拓したのだ。

自転車で走れば、
いつもと違う東京が見えてくる。

「以前は、自転車ってものすごくマニアックに楽しむ層、あくまでシンプルな交通手段としていわゆるママチャリを利用する層、この2つが大半だったじゃないですか。僕は軽快に乗れて、シンプルかつスポーティな自転車があればいいなというイメージを持っていた。街を楽しむための自転車と言えばいいかな。東京を走るならもちろんオシャレである必要がある。マウンテンバイクでもなくロードバイクでもなくママチャリでもなく、そういう自転車を作りたいと思っていたし、そのカテゴリーってぽっかり空いていたからそこにすっぽりハマった感じなんですよね(笑)」

数十万円もする高価なロードバイクでもなければ、安価なママチャリでもない。tokyobikeで作られているのは4万〜7万程度のスタイリッシュな自転車たち。そのラインナップはシンプルという共通項を持ちながら、モダンなカラーリングやこだわりのサドルなど、センスを感じさせるデザインのものばかり。その名の通り、東京で街乗りするのにふさわしいこだわりのルックスが固定客のハートをつかんでいる。

提供するのはモノではなく
共感をよぶ「ストーリー」

 シンプルで主張しすぎないデザインは誰でも選びやすく、こだわりのカラーリングがほどよい個性となっているtokyobikeのプロダクト。いわば、東京らしいデザインが成功の源泉なのだが、こうしたアイデアはどこから生まれたものなのだろうか。

「自転車そのものだけでなく、カタログなどもすべて社内のスタッフ同士でああでもない、こうでもないと話しあいながら作ってますね。カッコ良く言えば、日常的にクリエイティブなコミュニケーションがまあ、取れてるのかもしれません。自転車の熱狂的なファンというより、洗練されたファッションやライフスタイルに興味のあるスタッフが集まっているという感じですかね。僕自身はいろいろなもの、ことに影響を受けていて、たとえばアップルとか無印良品とか、シンプルで主張しずぎないけど存在感のあるプロダクトにやっぱり惹かれますよね。そうそう、自動車雑誌の”NAVI”も好きでした。あの雑誌のテーマは車というよりライフスタイルでしょう。 tokyobikeが提供しているのも自転車そのものだけじゃなく、スタイルというかカルチャーというか、自転車を通じた楽しさなんです。そういう思いが多くの人に伝わっているんだとすれば嬉しいですよね」

 店舗を見回せば、金井さんの言葉がストンと理解できる。印象的なのは、プロダクトそのもののデザインだけでなく、さりげないディスプレイや店舗の空間が創出する空気。tokyobikeというブランドのストーリーが店舗全体で表現されている。

「tokyobikeの自転車は、東京という街とどう接するか、東京をどう楽しむかという道具」なのだと話す金井さん。コロナによって街全体が戦々恐々とするなか、こんな自転車で軽快に東京を楽しむのも、確かに心地よさそうだ。


tokyobike
自転車やパーツ、アクセサリーの販売・修理、各車種の試乗も楽しめる自転車カルチャーストア(イベントやレンタルはコロナウイルスの影響により一部、お休み)。東京では谷中のほか、中目黒、吉祥寺、豪徳寺、福岡に店舗を構える。海外ではロサンゼルス、ロンドン、ベルリン、ミラノ、メルボルン、バンコク、台北に支店を有する。

https://tokyobike.com

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