DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP tokyo vol.014

ブランドを良き方向に育てるという仕事。
その中身と極意、
感性の磨き方についてのヒント。

ブランディングディレクター 行方ひさこさん インタビュー
2020.9.15

一貫性をもって、
すべてのコンテンツを整えていく仕事

 あるブランドがユーザーから支持を得て、継続的に商業的な結果を出すには、当然、適切なブランディングが必要だ。こうしたブランディングの骨格や運用方法を指し示すのがブランディングディレクターの役割。そこで気になるのがブランディングディレクターの思考回路である。

 今回、話を聞くのは行方ひさこさん。ファッション業界からキャリアをスタートし、これまで幅広い業界、多岐に渡るブランドの方向性をディレクションしてきたエキスパートだ。そんな彼女にブランディングの仕事の中身、プロジェクトを良き方向へ導くヒント、ディレクターとしての感性を研ぎ澄ませるための手法などについて聞いていく。まずは多くの人が知っているようで知らない、ブランディングの仕事のアウトラインについて。

「たとえばファッションブランドなら、店舗の内装、接客の仕方、POP、カタログ、PRの方法やキャスティングなど挙げればキリがないんですが、こうしたものすべて、お客様が接するもの。お客様側から見ればどれもが、そのブランドだと認識するコンテンツになるわけです。言ってみれば、これらを整えていくのが私の仕事になりますね」

微妙なニュアンスを共有する
ユニークな方法

 要はユーザーと触れうるブランドの見え方、感じ方を整備していくのがブランディングの仕事。その時、求められるのはもちろん一貫性だ。そうなると、ブランドによっては携わるアイテム、事象が膨大なボリュームになる。こうしたケースで行方さんはどのような目線でディレクションを行っていくのだろう。

「すべてのディテールを自分で考えて、手を加えて、ということは不可能な場合もあります。ですから全体を俯瞰で見ながら、統一感をもってつじつまが合うように串刺しにしていくってことですね。この統一感をブランドへ反映するために必要なのが、関わるスタッフ、チーム全体で同じゴールを見られるようにすること。これがとても大切なんですよね」

関わるスタッフが多ければ多いほど、クリエイティブの結果にブレが生じ、同じゴールを目指すことは難しくなってくる。そのようなブレを防ぐために欠かせないのが「コミュニケーション」だと行方さんは話す。ではどのようなコミュニケーションを取れば、全員の目線に統一感が生まれてくるのだろうか。

「ディレクターがこうしてほしい、これが正しいと指し示すだけだと、話が一方的になってしまうんですよね。その時、ディレクターがどんな思考回路でその方向を絞り込んでいったのかを理解してもらうことが大切ですよね。また、全員の感覚にブレが出ないよう、私がよく用いるのはこういう方法です。たとえばファッションの場合、SNSなどで皆をグループでまとめ、私が200とか300とか画像をアップしていくんです。これはアリ、これはナシという私の認識を添えて。そのあとグループのメンバーにもそれぞれ”アリ””ナシ”を挙げていってもらって、皆でそれを共有する。このスカート丈はナシとか、襟の大きさはここまではアリとか。そういうことを続けていくとディレクター、デザイナーなど全員が共通のビジュアルを目指せるようになっていくんですよね。言葉ではなかなか伝えにくい微妙なニュアンスも、このようなやり方だとディテールに至るまで皆の方向性に一貫性が生まれてくる」

自らをフレッシュに保ち、
オリジナリティあふれる提案を

「もちろん仕事として依頼を受けたらそのブランドの商業的な成功が私にとって一番の目的。それに加えて、私が関わった仕事が誰かの目に触れた時、少しでも心が揺さぶられたとか、立ち止まって何かを考えてもらえたということがあれば、とてもうれしいですね。あとは未来の世代に対して、少しでも良い影響を与えられる仕事を、というのが私の理想」

 そんな行方さんに、質の高い仕事を実現するため、実践していることはなにかと聞いてみた。幅広い業界を横断しながらも、しなやかな感性によって的確な答えを見つけ出すエネルギーの源泉は、どのようなところから生まれでてくるのだろうか。しばし考えたあと、彼女はこう答えた。

「移動距離は思考の深さと比例すると思っているので、少しでも気になったら積極的に移動というか、旅に出るようにはしてるかな。できるだけ視野が狭くならないようにという意味もあるんですけど、物事を俯瞰で見られるように、飛行機に乗って、新幹線に乗って、遠くへ。自分がありえない高さや速さで進んでいると、自然と俯瞰で思考できるような気がするんです。旅に出れば日常の細かいことからも解放されるし、広いところから思考できるようにも思うんです。旅する時に、ほとんど予定を立てないというのも、突然、思い立ったことを旅先で実現したいと思っているから。事前の情報はなるべく入れないようにしておいて、気持ちをフリーにしておきたいというか、偶然に備えられるようにして勘の力を養いたいというか。どれだけ仕事に良い影響があるかはわかりませんが、できるだけオリジナリティのあるものを提案したいといつも考えているので、頭や身体をフレッシュにしておきたいということは意識していますね」

これからも加速する
テイクアウトの文化

 もとはファッション業界で経験を積んだ行方さんだが、現在は幅広いジャンルでタクトを振るう。とりわけ公私ともに強い興味を抱いているのが「食」の分野だ。いま、コロナウィルスの蔓延によって甚大な影響を受けている食の業界。今後の展開を彼女がどう読んでいるか、気になるところだ。

「どうでしょう。もちろん私にもわかりませんが、外食と家食(=内食)の間にあるテイクアウトはこれからもっと根付いていくと思っています。だけどコロナの影響で突然、こうした流れになったわけではないだろうと私は思っていて。つまりコロナ以前からテイクアウトは増えつつあって、その流れがコロナによって加速したということなんですよね。足早に来てしまった未来、という感じかな」

 TP tokyoが手掛けるテイクアウト容器の新規プロジェクト「TAKE PACK」でも、ブランディングディレクターを務める行方さん。テイクアウトのパッケージについてはこう考えを示した。

「視覚から入ってくる情報はとても大きいでしょう。もちろん中身が美味しいのは大前提ですけど、同じレベルの美味しさであればパッケージがきれいな方がいいに決まってる。同じおにぎりでも、サランラップにただ包んであるより、おばあちゃんが持たせてくれるような包みに入ってる方が誰しも嬉しい。見た目に美しいパッケージがどんどん増えたら楽しいですよね。素材自体が環境に優しいということなども、ユーザーにとってはポイントになってきますよね。すべてがブランディングということです」

 目指すのは「画期的なオリジナル」と話す行方さん。彼女がディレクションする「TAKE PACK」のパッケージはきっとユーザーの顔をほころばせ、地球にも特段優しい表情を見せるものとなるのだろう。

行方 ひさこ(なめかた ひさこ)/ブランディング ディレクター
「ブランドのDNA」=「ブランドらしさ」を築くため、ストーリーやデザインなどの一貫したコンセプトワークを行い、ブランドの向かうべき方向を示す。アパレルブランド経営、デザイナーなどの経験を活かして工芸・アパレル・フード・ビューティなど幅広い分野で活動中。

https://hisakonamekata.com

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