DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP tokyo vol.012

激変するTOKYOフードカルチャー。
ユーザーに選ばれる
中食のあり方を求めて。

料理家、フードコーディネーター 二部桜子さん インタビュー
2020.07.16

新型コロナが「食」に及ぼす
多大な影響。

 地球のあらゆる場所で猛威を奮う、新型コロナウイルス。この災禍に対し、世界各地の人々は生活様式やワークスタイルにおける大きな変革を余儀なくされている。このような状況下で、誰もが実感している変化のひとつが「外食」との距離感だ。多くの人々がいまだ外出そのものを控えるというマインドである上、「密」になるケースを容易に想定し得る、外食というアクション。緊急事態宣言が解除され、各都道府県間の移動制限が緩和されても、外食の機会を手控えるトレンドに、大きな変化は見られないのが2020年夏、日本の現状だ。

 当然、ダイレクトにダメージを受けるのは外食関連の事業者だが、生き残りを賭けて、従来とは異なる業態に挑戦しようとする事業者も多く見られる。そんな状況で有効な手段となりうるのが「テイクアウト」という選択肢である。

外食の機会が減り、
その代わりに増えていくものとは?

「コロナでお客さんが減ったことで、高級料理店でさえテイクアウトのスタイルをとるような店が出てきましたよね。そのような新しい試み自体が話題や宣伝になるし、他の店との差別化にもなってきているようです。外食産業はすでに大きな変化を見せ始めていると思いますよ」
 こう話すのは、東京・蔵前をベースにフードスタイリングやケータリングを行っている二部桜子さん。彼女が運営する「SHUNNO KITCHEN」は、ファッション業界の新作発表会や、メディアが開催する華やかなイベントに引っ張りだこ。厳選した旬の食材、ユニークな調理方法で美味しさを追求するのはもちろん、その場にふさわしい見た目の美しさや驚きが、人気の秘密。料理のあり方を日々、思考する二部さんは、東京におけるフードカルチャーが今後、ますます大きく変わっていくと話す。

「東京には美味しい店がたくさんありますけど、外食の機会はどんどん減って、その代わりに中食を選ぶ人が自然と増えていくと思いますね。働き方もずいぶん、変わってきているし、仕事帰りになんとなく飲みに行くという機会も減っているじゃないですか。夜遅くまで深酒しながら食べるというより、明るいうちからサクっと飲んで、食べる方が実は楽しくて時間も有効に使えるっていうことに、あらためて多くの人が気づいたんだと思う。親しい人だけを呼んで工夫を凝らしたホームパーティーっていうカルチャーもどんどん浸透していますし」
 人々のマインドの変化に連れ、外食ビジネスにおける変化のスピードが加速していくことは容易に想像できる。単に「テイクアウトできる」だけでは活気づく中食カルチャーの中でどんどん埋もれていってしまうかもしれない。これからの中食でユーザーに選ばれるのは、テイクアウト、プラスアルファの魅力を持った商品。そのプラスアルファを追求する動きが、業界ではすでにスタートしている。

プロの創造性を
家で楽しむという贅沢。
自由に広がっていく、中食の小宇宙。

 ラグジュアリーなファッションブランドの新作発表会、あるいは人気女性誌が主催する華やかなパーティーなどで、趣向を凝らしたケータリングやスタイリングを手掛けてきた二部さん。コロナ禍によってこうしたニーズが一時的に激減した今、新たなチャレンジを始めている。厳選した旬の食材とプロの調理を組み合わせたミールキットの販売だ。家庭で簡単に温めたり、ほんの少し手を加えるだけでレストランの気分を手軽に楽しめる、言ってみれば「おうちケータリング」である。「ブッラータチーズと季節のフルーツのセット」「オーガニックベジタブルとエディブルフラワーのサラダ」「オーガニックレモンクリームパスタ」などなど、そのメニューは進化を続けている。
「外食ができなくても、自宅で豊かな時間を過ごせるようにって。レンジでチンするだけでできるものもありますけど、それだけじゃつまらないっていう人に向けて、調理も楽しめるよう工夫してあります。自分で作った手応えを感じてもらえれば中食はもっと楽しくなるでしょうし、盛り付けや器にこだわればどんどんオリジナルの料理になっていく。手軽にサッと買ってきて、すぐ食べるというテイクアウトももちろん便利だけど、一手間が必要な中食の楽しさもきっと広がっていくと思っているんです」

 プロのスタイリング感覚が注入されたミールキットは届いた瞬間、その見た目に心を奪われる。さらに自分で手を加えることで創意工夫の楽しさを実感でき、自宅での時間が豊かなものとなっていく。感度の高いユーザーはこのミールキットで作った料理を美しく盛り付け、インスタなどでビジュアルを共有。美味しさや楽しさが広く拡散し始めているという。

食にも創造する楽しさを。
アメリカで感じた、自由な空気。

二部さんのお母さん(二部治身さん)は、自然農法で花や野菜を作り、旬の食材、美味しい料理を研究したことで知られる著名な研究家。そんな家で育った二部さんは高校卒業後、アメリカへ渡り、NYでファッション関連の職に就く。10数年、アメリカで著名ブランドの仕事を経た後、帰国。しばらく日本でもファッション業界で働いた後、突如、ケータリングの世界で挑戦を始めた。
「NYでデザインの勉強をしていた時、あるアートのグループ展に行った。そこで数人のアーティストがひとりのモデルを見ながら絵を描いていたんです。でも、皆が全く異なる絵を描いていて私はちょっと衝撃を受けたんですよね。同じモデルなのに、描く人の個性でこんなにも絵が違っていていいんだと。その時から美術の面白さに目覚めて、大学を卒業後はアパレルの世界でバイヤーをするようになったんです。アパレルの業界ではパーティーなども多く、そういう経験が今につながっているとは思います」

 10数年に渡るアメリカでの生活で、自然と食に対するクリエイティブな感覚も養われたと話す二部さん。欲しい食材や調味料がなかなか手に入らないという状況で、欲しい味をなんとか自分で作り出す楽しさを覚えていった。
「たとえばポン酢ひとつにしてもなかなか手に入らない。じゃあチャイナタウンであれとこれを買って、それっぽい味を出そうとか。言ってみれば美術と同じく、自由な発想で。帰国してからも仕事でアメリカと行き来するなかで、ニューアメリカンというスタイルを知ることになった。だしとか、味噌とか、柚子なんていう日本特有の食材とか味を、日本人がなかなか実践しないような方法で調理したり、工夫した味付けに利用したり。そういうアメリカ人の発想がとてもクリエイティブだなと感じたし、料理ってこんなに自由でいいんだって思えた」

 こうした経験が二部さんを料理の世界に向かわせることになる。そもそもお母さんの影響でナチュラルな食材と料理には思いも深かった。これまでとは異なる新しい挑戦にも興味があった。「自分でなにかを創造する」という楽しさをアメリカで覚えたのも大きかっただろう。様々な見聞がひとつの方向へと凝縮されるように、料理を創造するという道が自然と開かれていった。

単なる「箱詰め」では
もう選ばれない時代。
進化するテイクアウトの文化。

 持ち味は、ナチュラルかつ独創的な発想による食材の選択とスタイリング。二部さんへのオファーは途切れることがない。テーブルいっぱいに野菜を並べて、森を表現したり、カカオや胡麻を駆使して美味しい「土」のような料理を考案したり。
「フォーカスしているのは、その地元にしかない食材を、新たな形で調理するっていうことかな。伝統的な調理ではなく、私ならではの考え方で調理して美味しさを提供できればと」

 美味しいだけではなく、見た目にも美しいのが大前提。食感、食べた時の音、香りなど、人間の五感すべてに訴えるような料理が二部さんの理想だ。
「テイクアウトにしても、ただ料理を箱詰めにしただけだと、物足りなさを感じるユーザーが増えてくるかもしれません。容器そのものも美味しさを表現してくれるようなものであった方がいいでしょうし、そこに盛り付けられた時も美味しそうに見えた方がもちろんいいでしょう」
 新たな中食のカルチャーを予見し、TP tokyoは二部さんとのコラボレーションを実現。美しく、美味しくテイクアウトを楽しむパッケージを現在、考案中だ。コロナによって激変する東京のフードカルチャー。食におけるデザインの領域は今後益々、拡張していくに違いない。

SHUNNO KITCHEN
二部桜子さんが運営する、フードサービス。食を通じて、美味しさ、喜び、四季を伝える”伝え手”として、ヘルシーかつファッショナブルなケータリング、ミールキットを広く提供。旬の食材を選ぶ目、どこまでも自由な発想、盛り付けの感性は、感度の高い業界やインフルエンサーなどに高く評価される。

shunnokitchen.com

DESIGN + TOKYO

WEB MAGAZINE by TP tokyo

TP東京がデザインの「今」を思考し、伝えるWEBマガジン。
ビジネス、ライフスタイル、エンターテインメント、フィロソフィーなど、
毎回、幅広い分野におけるデザインの成功例をテーマに、
最適解とはどのようなロジックで導き出されるものなのかを追求していきます。